社会貢献の功績
野口 義弘
平成7年に北九州市でガソリンスタンドを開業して以来、少年院や刑務所の出所者、不登校経験のある少年少女を雇用し、立ち直りを支援。のべ87人を雇用した。現在経営中の三店舗の、従業員の多くは非行歴のある子どもたちである。「非行に走る少年たちは、本当は素直な子ばかり。原因は、大人が創出した社会環境にある」と訴え、「信頼され、立ち直る場所さえあれば、子どもは必ず変わる」という信念を貫き、家族ぐるみで支援を続けている。
「信じ続ければ少年たちは応えてくれる」
1991年北九州市少年相談センターに勤めていた妻から「お父さん、とてもいい女の子がいるんだけど、非行歴があるために働くところがないの。あなたが所長を務めているガソリンスタンドで雇ってもらえないかな!」という相談でした。「深夜徘徊、家出、窃盗、無免許暴走、シンナー」を繰り返していたその女の子、春子と会ってびっくりしました。
真っ赤に染めた長い髪、真っ赤なマニュキアを塗り濃い化粧をしていたので、とても16歳には見えませんでした。不安はありましたが、髪を元に戻し爪もきれいにする約束で雇ってみると、とても素直で、スタンドの商品販売でトップになったこともあり、そのことで周りから誉められると、自信をつけ、働くことで自分の居場所を見つけることが出来たのです。今は37歳、結婚して一児の母親となり、今でも店に立ち寄ってくれます。
私は1983年、小倉南警察署から少年補導員の委嘱を受け、非行少年と呼ばれる少年たちと関わって来ました。当時シンナーを吸う少年たちは正直恐かったのですが、春子との出会いで、少年と同じ目線で、真正面から向き合い、ゆっくり話を聞いてやることで、「自分の気持ちを理解してくれた、困った時は助けてくれる」と感じたとき、初めて心を開くことを、春子との出合いで知ったのです。それまでは外見だけで非行少年と決めつけていた自分を恥じました。
1994年独立「野口石油」を創立、保護司の妻からの依頼で福岡保護観察所協力雇用主(仮釈放や保護観察中の人を雇用、更生支援をするボランティア事業主のことです)に登録しました。刑務所、少年院、少女苑、鑑別所、保護観察中の少年たちを、北九州市で経営する3ケ所のスタンドで16年間、87人の社会復帰の手助けをして来ました。現在は社員30名(含、パート、バイト)の中、非行歴のある16名が更生に向けて努力しています。ほとんどの少年が中学生の時、非行に走り不登校で規範意識が低く、善と悪の判断すら出来ない子もいますが、スタンドでは引継日報や、売上金の計算、管理を任せます。任せることは「信じる」ことですから、認められたら悪いことはしません。
しかし、すべての少年たちが立ち直ったわけではありません。お金を持ち逃げされたり、突然行方不明になったり、仕事上のミスやお客様とのトラブル、事故や事件が起こり、その度に会社は損害を被り、リスクを背負いました。何度か挫折しかけましたが、それを恐れたら少年や社員の成長がストップすると思ったのです。
「非行少年を更生が可能な期間に放置すると、本当の犯罪者になってしまう。発展途上の少年たちは、ちょっとしたキッカケで立派に成長してくれる。私はこのことを身を持って実感してきました。少年を犯罪者にしないためには、社会が手を差し伸べることが必要、私は雇用してくれる場所があれば必ず更生できる」と信じ、雇用活動を続けていきたいと思います。
幸いに昨年4月「NPO法人福岡県就労支援事業者機構」が設立。機構の下部組織として「福岡県連合雇用主会」が発足しました。機構の理事と同会の会長を兼務し、今年8月「非行少年更生支援ネットワーク」を立ち上げました。一般企業の理解を得ることは、とても難しい状況ですが、講演等を通して雇用の呼び掛けの成果で今年60社も増え、現在190社となり嬉しく思います。一昨年少年院の出院者3,892人、県の保護観察中の少年が約1,700人と聞きます。私の会社はお客様が来店されて車を洗車する比率「洗車率」が日本一です。会社の経営を支えてくれているのが実は、少年たちなのです。「信じ続ければ少年たちは必ず、応えてくれる」と信じて。