人命救助の功績
大谷 照男
平成22年3月18日午前7時30分頃、東京都北区のJR山手線の電車内で、父母を探すように激しく泣いている幼児と一緒にいる男を不審に思い、声をかけ田端駅で降車させて駅員を通じて警察に通報した。幼児は東久留米市のスーパーから連れ去られていたことが判明し、幼児は保護され、男の逮捕に協力した。
3月18日、私はいつも通り西武線で池袋に出て、上野周りで浜松町・モノレールという通勤ルートの電車の中でした。いつものホーム、いつもの号車に乗って池袋ホームを経った時からの出来事です。
山手線の車内に、子供のぐずる声が聞こえてきました。朝7時40分頃の出来事です。電車の中はいつも通り込み合っていて、ほとんどの吊り皮にお客さんがつかまって立っています。子供の声はその乗客の陰から聞こえてきます。きっと早くから起こされてまだ眠いのに、お出かけでぐずっているのかなあと思いました。普通ならお母さんがあやしてくれて、少し経てば収まるのですが、今日はなかなか泣きやまないようで、どうしたのかなと、乗客の人波の間から泣き声の方を見ました。
すると、母子連れではなく、初老の男性と小さな子供、ちょうどお爺ちゃんと孫の二人連れに見受けられました。今日はお母さんの具合が悪く、お爺ちゃんが子守り役なのかなあ、慣れない様子で大変そうだなあと見ていました。
やがて二駅ほど通過したでしょうか、子供のぐずる様子は一向に収まらず、ますますその度合を増しているではありませんか。何だか不自然さを感じ、二人の様子に耳をそばだてて聞いていると、子供は「ママー、ママー」と泣き叫んでいます。一方男は「パパもママもいないからね」という内容であやしているのを聞きとることができました。
「パパもママもいない」とは尋常ではありません。やがて子供は電車のイスから滑り降り、電車の床に寝そべって泣き叫んでいます。その横に男がしゃがんであやそうとしています。ますます不自然さを感じながらも、ついに田端駅に停車したとき、そばに歩み寄って二人に声をかけました。
「どうしたんですか?」
男は、「この子は迷子なんです」と答えました。
「どこで迷子を見つけたんですか?」と聞くと、「池袋です」と答えました。すでに池袋から4駅も過ぎているのに、迷子を連れまわすとは異常です。「なぜすぐに届けなかったんだ、すぐに連れて行こう、お前も一緒に行こう」と左手で子供を抱きかかえると同時に、その男の袖口も掴んで、駅の事務所まで連れて行き、駅員さんに引き渡したのです。その後その男が誘拐犯であるとの知らせに、本当にびっくりしました。
後日、ご家族揃って拙宅までお礼に来られ、ご両親や小学生のお兄ちゃんたちから、丁重なお礼の言葉を頂きました。とりわけお母さんの心痛はどれほどだっただろうと思われ、お母さんの胸に無事帰ることができたことを、何よりのことと思ったことでした。
また、一連の事件解決にあたっては、永年成人指導者として関わってきた「ボーイスカウトのおしえ」によって役に立てたことも、喜びの一つとなりました。マスコミにも取り上げていただき、多くのスカウト仲間からもお誉めの言葉をいただきました。
今回このような栄誉ある賞を頂くこととなり、今後ともこの栄誉に恥じぬよう精進してまいります。
関係各位の皆様、本当にありがとうございました。