社会貢献の功績
東海大学 緑の会
もう 30 年近く経つと思うが、都市の中の緑の多面的機能について、亡き戸田先生とお話していた。特に都市の緑の代表でもある生垣についての話題が中心だったような気がする。
生垣は仕切り、目隠し、境界、景観などの実用性と植物の四季の変化を鑑賞する審美的効果はもちろん、その他の機能として大気浄化、気象緩和、防災そして地域のつながりを形成するなど多くの効果が見込まれる。このようにすばらしい機能をもつ生垣を熊本で復活させようということになった。そこで出会ったのが菊陽町の「鉄砲小路」であった。
「鉄砲小路」は一直線に 1km ほど続く生垣の景観のすばらしさばかりでなく、江戸時代から続く生垣の文化という意味でも意義のある場所であった。しかし、当時はコンクリートブロック塀全盛の時代で、都市の中からどんどん生垣が姿を消している時期でもあった。「鉄砲小路」も生垣の管理の手間や設置に費用がかかる等の理由でこの例外ではなかった。そこで、人手が無く剪定作業が困難なお宅の生垣を学生の力を借り、剪定の奉仕活動を「緑の会」として始めた。同時に生垣の機能について地域の方に説明や講演会を開催した。このことは、「鉄砲小路」の方々にとって、この生垣がすばらしい文化的遺産であり誇りであること、生垣の機能がすばらしいことを再認識していただく良い機会になった。また、菊陽町も町をあげて支援していただいた。その結果、生垣の長さは年々延長され景観の美しさから熊本県の景観賞にも選ばれ、現在では総延長4kmに達し、同町を訪れる観光客の散策路にもなっている。
「鉄砲小路」は年々生垣の総延長は長くなる一方だが、剪定作業時間は短くなっている。それは、地域住民の皆さんの意識が高くなると同時に生垣の管理が行き届いてきたからなのである。卒業生と「鉄砲小路」の話をするときに必ず話題に上るのが、婦人会の皆さん手作りの郷土料理「だご汁」や「おにぎり」と作業中のミカンやカキの美味しかった思い出である。結婚して奥さんを連れて手伝いに来てくれた卒業生もいた。生垣は地域の人のつながりばかりではなく、私と学生の心のつながりをつくってくれたようである。
今年で28年目をむかえる活動となる。戸田先生のご意思を引き継ぎ今年の11月も30名ほどの学生と一緒に剪定奉仕を行うが、これからも「緑の会」の活動を末永く続けていきたいと思っている。
(代表・長野 克也)
受賞の言葉
「緑の垣根運動」は今年で 28 年目を迎えました。その間に我々や地域の方々の植物や環境に対する価値観も大きく変化し、すばらしい緑の町並みが完成いたしました。今回の社会貢献者賞授与に心から感謝申し上げるとともに、これまで共に活動してきた学生諸君、菊陽町町長様をはじめとする職員の皆様、鉄砲小路の住民の皆様、そして、故戸田義宏教授にこの賞をささげます。