NGOベトナムの子ども達を支援する会
支援学級の教師をしていた板東あけみさんは、39歳の時ベトナムベンチェ省を訪問した。現地では枯葉剤に加えてワクチンや医療従事者の知識・技術や医療機材の不足などの厳しい環境によって、多くの障がい児が存在していた。その現状に突き動かされ1990年に同会を設立。障がい児学校や病院の建設、村診療所の医療機材改善、専門家研修などを実施した。障がいの予防・早期発見・早期介入を考える時、妊産婦の管理は大変重要と考え、日本発祥の母子手帳の使用を行政に提案した。1998年から省の全面的な承認と各機関への指導を得て本格的な母子手帳がベンチェ省で使われ始めた。この取り組みはベトナム保健省の大きな関心を呼び、2020年には保健省からベトナムで唯一の家庭保管の母子保健記録と認定されて、ついに全国展開に至った。貴重なボトムアップの実例である。その後早期介入のための早期支援センターの設立に協力し、ベンチェ省で今では2、3歳くらいから地域の保育園と並行通園しながら訓練を受けている母子が多くいる。また地域の小学校にパイロット支援学級を設置。重度の在宅障がい児や成人へ支援を行うための地域健康管理員用の資料や研修などを継続的に行っている。これらは、明確に自立向けた支援活動であり、行政との協働による理想的な国際協力である。
「子ども達を大切にする行政・地域とともに歩んだ32年の軌跡」
1990年に初訪問したベトナム南部ベンチェ省には、30余年にわたるベトナム戦争の影響が色濃く残り、電気が通っていない、病院には医療機材も技術もない、ワクチンもない、治療も十分に受けられない、小学校すら十分にないなど、まるでタイムマシンに乗ったかのような錯覚すら感じました。半面ベンチェ省の行政幹部が、資金のない中自分たちの給与から寄付を集めて、障がいのある子ども達の学校の建設計画をつくり始めておいでになったことに深い感銘を受けました。この2つの出来事から、当会を1990年に設立し、この30年あまりに医療・教育・福祉・地域の軸と、障がいの予防・早期発見・早期介入・社会参加の軸を重ねて、交流ツアーを行っててきました。医師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師・保健師・発達検査専門家・特別支援教育の教師などの専門家に加えて、障がいのある方々やご家族の参加もありました。そしてこの間に教員研修と併せて障がい児学校が建設されて、早期支援センターができ、近隣の保育園と並行通園できる子ども達が急増しました。
新生児管理やリハビリなどの医療技術協力も実を結び、併せて提案した母子健康手帳は、ベンチェ省の成果を政府に評価されて、貴重なボトムアップとなり今やベトナム全地域で使用されています。ベンチェ省の村のほとんどの集落には、地域健康管理員が配置され、在宅の障がいの重い人たちへの情報提供や相談活動もなされています。数年前からベンチェ省ではすべての子ども達の予防接種履歴がコンピュータで管理されております。お母さんと赤ちゃんが出産で入院している病院でポリオのワクチン投与を受けたということが、住民の健康を護る最前線の村診療所のコンピュータで確認できるそうです。
これらのベンチェ省の変化を30余年ずっと見続けてきて、私たちは援助する側される側という関係ではなく、ともに学びともに実践する中で共有できることがたくさんあるということを学びました。子ども達を護るためには医療と教育と福祉と地域社会が一丸となって連携する。私たちはベンチェ省の人たちと交流するたびに、この基本的なことをいつも胸に刻み、日本でも活かせることは活かしたいと思っています。早く、新型コロナが落ち着いてまた前のようにベンチェ省にいける日が来ることを楽しみにしています。
会長 関谷 滋