NPO法人 Seed to Table ~ひと・しぜん・くらしつながる~
ベトナムで活動する日本のNGOの事業の調査や、日本国際ボランティアセンターベトナム事務所代表を務めた経験を持つ伊能まゆさんが設立したNPO法人。同国は農業国だが、小規模経営が多く、生産物の取引価格の低さ、品質を保てない、農薬の過剰使用による自然資源などの問題を抱え農村部の生活は困難を極めていた。Seed to Tableでは、自然資源の劣化や減少などの現地の文化や伝統、固有のタネなどを守り、農村の人々と共に暮らしを改善していく取り組みを行っている。ベンチェ省の農村部で小規模農家と学校菜園(中高校)で、有機農業の技術を教え、生産物はPGSというひとつの有機認証を得た農産物として、ブランドとして販売している。生産物は全て有機農業の規格に沿って生産され、厳しく検品し、品質を守ることの重要さを教える。また、マイクロクレジットよりも取り組みやすい「アヒル銀行」の取り組みも行っている。農家にアヒルのヒナを貸して、育ててもらい、肉として売ったお金から最初のヒナ代を引いた分を収入とするシステム。うまくいくと「牛銀行」にも挑戦できる。1,000人が利用し、6割の人が貧困から抜け出せる成果をあげた。物資の支援よりも人々の能力を向上させ生活環境を改善し、地域の持続的な発展を目指す活動を継続している。
Seed to Tableは2009年にベトナム北部の山岳地域にてムオン族の皆さんと在来のタネを守る活動や環境教育を開始しました。おりしもベトナムは目覚ましい経済発展の最中で、環境問題や貧富の格差が生じており、とりわけ、南部メコンデルタの農村部では気候変動が人々の暮らしに影響を及ぼし始め、土地を失った農家が日雇い労働者となるなど、貧困化が進んでいました。こうした状況を鑑み、メコンデルタへ活動の拠点を移し、貧困世帯の生活改善、有機農業の推進、次世代の育成、枯葉剤被害者への支援などを行ってきました。
私たちの支援の方法は、支援が終了しても地域の人々が自分の足で立って暮らしていけるよう、「魚」ではなく「釣り竿」と支援し、「釣り方」について共に考え、実践していくというものです。とりわけ、貧困世帯は安定した現金収入がないため、現金を支援したり、貸してしまうと、日々の生活費などに使ってしまい、貧困から脱却できません。そこで、私たちはお金ではなく、アヒルや牛を貸す「銀行」を作りました。
まず、貧困世帯は「アヒル銀行」から25羽のヒナを借り、アヒルを育てて食肉として販売した後にヒナ代を返済します。アヒルの飼育に成功した世帯は借りるヒナの数を増やしたり、牛を借りることができます。「牛銀行」では貧困世帯がメスの牛を一頭借り、妊娠・出産後、メスの子牛を一頭、返済します。さらに、貧困世帯は研修に参加し、アヒルや牛を飼う方法や、支出入を管理するための帳簿のつけ方を学びます。この研修に参加しない人はアヒルや牛を借りることはできません。これまでに延べ1,000世帯が「銀行」からアヒルや牛を借り、約60%の世帯が貧困から脱却しました。中には、1年目にアヒルの飼育に成功し、2年目に牛を借りて増やし、3年後には0.5haの水田を購入するまで経済力をつけた世帯もありました。
また、子供たちと学校菜園を作り、有機野菜を育て、生態系を観察し、シェフの皆さんと共に地域の食文化について学び、自然資源の大切さや今のライフスタイルの問題点や改善策について話し合ってきました。この活動を通じて、若い世代が気づき、考え、行動していく姿を見て、手ごたえを感じています。これからの社会を担う若者が、希望を失わず、自分の生まれた地域の自然や文化を大事にし、家族や仲間と支え合って生きていけるよう、私たちは活動を続けていきたいと思います。
ありがとうございました。
伊能 まゆ