社会貢献の功績
犬飼 公一
滋賀医科大学に進学後、一般家庭と生活保護世帯の子どもの高校進学率に大きな差があることをニュースで知り、「教育から貧困の連鎖を断ちたい」と2007年大津市内で生活保護世帯や母子家庭の中学生を対象にした学習会を開き延べ1,000人を超える中学生の学習支援を行った。2011年に日本で初めて全国の学習会をつなぐ「全国学習支援ネットワーク」を設立し、学習支援事業を広く浸透させた。全国各地で講演やシンポジウムを開催し、見えにくい「子どもの貧困」問題の啓発活動を行っている。この問題のシンボルマークとして「虹色リボン」をデザインし虹色リボン運動をして問題意識を浸透させる活動を行っている。医師となった現在も活動を継続し、専門知識を活かして学習会に参加する子どもたちの健康チェックを行う「往診」も定期的に行っている。
この度は第50回社会貢献者表彰という栄えある名誉をいただき、安倍会長をはじめとする関係各位、審査委員の皆様、そして推薦人である田中氏に厚く御礼申し上げます。
私はこれまで、子どもの貧困問題について主に生活保護世帯の児童に対する学習支援活動や啓発活動を通じて取り組んで参りましたが、その地道な活動の成果に対してご評価いただけることはより一層の活動の励みとなりました。さて、「子どもの貧困問題」とは、貧困の世代間連鎖などが原因で、子どもたちに将来に渡って不利が蓄積し、健全な成長を阻害するという問題です。ここでいう貧困とは、1日1ドル以下で暮らさなければならない「絶対的貧困」というとらえ方ではなく「相対的貧困」すなわち、ある所得以下で暮らさなければならない世帯に属する子どもたちが直面する貧困感です。我々の活動は、この貧困状態から生まれる疎外感や孤独感という、お金では決して補填することのできない子どもたち独特の生きづらさを支える取り組みです。
近年は子どもの貧困問題対策法の成立や大学における給付型の奨学金制度の充実など、子どもの貧困をめぐる環境は着実に転換しつつあります。しかしながら、それらの網にもれてしまうような、受動的な支援では支援の手が届かない子どもたちがいるのも事実です。そのような子どもたちに学習支援という居場所を提供し、教育という子どもたちの将来へ渡る自立性をはぐくむ財産を育てようとすることが我々の活動の基本的姿勢となっています。今年で活動12年目となった現在では、以前学習支援活動で支援されていた中学生が大学へと進学して、学習支援の現場に今度は教える側として、中学生や小学生の支援を行っているというこれまでは考えもしなかった思いやりの連鎖が全国各地で報告されています。
今回、社会貢献者表彰の受賞をさせていただいたことも、「子どもの貧困」問題の啓発につながり、さまざまな追い風が吹いていることを実感しております。頂いた賞金を通して新しくシンポジウムを企画しております。実施の際には是非足をお運びください。今後とも医師として学習会に参加する中高生たちの健康チェックを行いながら、子どもたちの心に寄り添い、社会全体が健康になるようにこれからも活動を続けていきたいと思います。本当にありがとうございました。