社会貢献の功績
香月 武
1993年からアジアとアフリカの発展途上国で医師として口唇裂、口蓋裂の手術を行なうボランティア活動を行っている。ベトナムで日本口唇口蓋裂協会の仲間と手術を行ったことがきっかけ。その後は医師仲間に呼びかけてチームを編成し、ベトナムを始めスリランカ、フィリピン、モンゴル、ミャンマーやチュニジアに活動範囲を拡げている。手術の際、現地の医師の指導も行なうので、現地の技術向上にも貢献している。また手術用機材や救急車の寄贈なども行っている。2012年にNPO法人インターナショナル・葉隠を設立し、更なる活動に意欲を燃やしている。
20年目の活動のひと区切りであろうか。このたび公益財団法人社会貢献支援財団から表彰を受けることになり、光栄なことである。20年前の冬に初めてベトナム南部、メコンデルタの島、ベンチェ省に行った。東南アジアは初めての訪問であり、単なる旅行ではなく、手術が支障なく行えるよう、準備に神経を使った。手術器械はすべて日本から持っていくのであるが、たびたび停電するというので、部屋は暗闇になっても手術は出来るように、炭鉱夫が使うようなヘルメットに懐中電灯がついた非常用ライトを探して持っていった。予想にたがわず、このライトは十分に活躍して、停電時でも平常と同じように手術が行えた。その病院で使われていた麻酔器は今日のように電気で動くのではなく、手でバッグを押して呼吸を助けるものであったので、電気が来なくても全く問題がなく手術ができた。
ベトナムを皮切に、スリランカ、フィリピン、ラオス、ミャンマ-、モンゴルなどアジアの国々から招聘を受け、訪れるようになった。さらに、ワシントンでの学会の際にカナダの専門医の仲間からアフリカのチュニジアで一緒に手術に行くように誘われた。私は学生時代からアフリカで行われていたスイスのシュバイツアー博士の医療に尊敬の念を抱いていたので、自分がアフリカで手術ができると聞き、即座に行くという返答をした。このチュニジアでの手術は、現地の政治的な混乱のために、残念なことに昨年から中止せざるを得なくなった。
振り返ると、定年前から今日まで外国で自分の専門を生かして、手術をするという機会を得られたのは幸運であった。最近、団塊の世代が定年になり仕事が無くなって、朝起きたら今日は何をしようかと悩む高齢者が多いと報道されている。私は、そういう悩みは全くなかった。行った先々の外国で、多くの友人ができたので、今でもインターネットを使ったメイルの交換ができるし、その国の珍しい産物が送られてくる。スリランカからは自慢の紅茶とカレーのもとになるスパイス、モンゴルからはカシミヤの製品やカラカラに乾燥したチーズなどが送られてくる。先ごろ、スリランカで11年前に手術をした子供が成長して、自分の絵入りの詩集を出版したものが、送られてきた。それを見て、これまでの活動が無駄でなかったと実感した瞬間である。
このように色々な国で手術ができたのは、一緒に日本から私と一緒に外国に行ってくれる仲間や麻酔医、看護師さんたちがいるからで、この賞を頂いた折にそれらの人たちに感謝したい。