社会貢献の功績
阿部 春代
日本のハンセン病療養所勤務がきっかけで、患者や回復者が末梢神経障害によって手足の変形をきたすという後遺症に悩む現実を目の当たりにして、手足の保護の重要性を認識し、セルフケア・クリニックの実践に取組んだ。1991年に所属する団体からタイ国東北部コンケン県へボランティア看護師として派遣される。以来一貫して、障害のある手足を洗い、創傷の手当をしながら後遺症対策のセルフケアを患者自身が行えるように促してきた。20年にわたる実践の結果、その重要性が患者やその家族に理解されるようになり、医療施設の職員からも信頼される存在になっている。一緒に取り組んできた理学療法士が、患者の傷の治療のために自ら手伝いギプス治療を受け継いでくれるようになったので、高齢で動けない人への訪問看護も取り組み始めている。
活動のきっかけ、軌道に乗るまでの苦労、現在の状況、今後の展望等
受賞決定の通知を受けて思うことは、ハンセン病に関っているから得た機会であるだろうということです。では、なぜハンセン病に関ってきたのか。ハンセン病は治癒したがその後遺症によって手足の傷をくり返す人、あるいは手足の変形が著しく、そのために社会生活が困難になっている多くの人たちに出会いました。その人たちが私の看護の知識や技術による手助けによって手足の状態を良くし、困難な社会生活が少しでも容易になったらどんなによいことか、嬉しいことか。私はそんな思いから、タイへ出かけました。
知覚障害のために熱い・痛い等を感じない手足は、注意をしないと日常生活で傷を繰り返しますが、痛みがないのでその手当てが不十分です。ですから、先ずやってみて、その人の手足が良くなることをみてもらう。この実践を通して、自分の手足に関心を持ちセルフケアが継続されることを促してきました。そして「充分な手当てをすれば良くなり治り、予防できる。」と自信を持って言えるようになりました。同時に、いったんハンセン病で末梢神経障害が起こってしまうと、傷をつくらずに生活することは本当に難しいと痛感してきました。タイの人たちの多くが手を出さない、傷を持った人たちの汚れた足を、私は看護師として気になるから、放置できないから足を洗い、垢を擦っています。
昨年のタイ滞在20年の長期休暇から復帰して、高齢で動けない人への訪問看護を始めました。それは、一緒に取り組んできた理学療法士が、患者の傷の治療のために自ら手伝い、ギプス治療を受け継いでくれるようになったことと、日本の療養所の人たちのように高齢になり、身寄りのない人の一層不自由な療養生活が見えたからです。
時にはため息をつきながらも、人間の自然治癒力を引き出す看護の喜びを味わいつつ、拙い私の外国語を聞いてくれる人がいて、私を待っている人がいるという喜びが継続力となっています。