社会貢献の功績
Sr. Josephine Arul Chandra
チャンドラさんは、もともと社会の弱者につくしたいという希望を強くもち、このため社会福祉事業を重視する現在所属するインドの修道会に入った。その研修中に身分を隠しダリットの人々と農作業を共にした際に、炎天下で行う激しい農作業中に渇いたのどを潤すことさえも許されず、水を飲もうとした矢先になぐられ激しくののしられる光景を目にしたことが、ダリットのために働くことを決意させた。さらにダリットの継承してきた民俗芸能の活性化こそが自尊心や誇りを育てる大きな役割があることに気づいたことが活動のきっかけであった。
ダリットとは、インドのカースト制という身分制度の中で、最下層のアウトカーストと呼ばれ抑圧される人々で、インドの人口の約16~7%(1億6~7千万人)を占めるといわれている。
特に女性として生まれたダリットは、さらにもう1つの差別を受けなければならない。生まれても女の子とわかった途端に殺されたり、学校などの教育の機会も制限されるということが日常茶飯事であるという。
1990年(平成2年)に南インド・タミルナードゥ州のディンディガル県にある村の一画に家を借りて、「シャクティセンター」(「センター」)として20名の貧しくて学校に1~2年しか通うことができなかった少女たちを受け入れ、識字教育、村のワーカーとしての技術、洋裁などの自立のための技術、民俗舞踊などについて教え、共に暮らしながら彼女たちをリーダーへと育てはじめた。
チャンドラさんの教育は、ダリットの人々自身が育んできたタミルナードゥ州に伝わる民俗舞踊や民謡を通じて、リーダーの養成教育を行なう方法であった。これらを通してダリットの少女たちは、自らおかれた社会的環境や問題を理解し、自尊心を回復し、内面から意識変革を果たしていくのである。歌に自らの境遇や抵抗の精神をこめて歌い踊るのである。
ダリットの女性たちの公演は社会的インパクトが大きく、次第に各地にシャクティの舞台のうわさが広った。こうした公演の収入が、農村での活動の資金になっている他、「センター」での女性リーダー訓練のための資金となり、完全に自立した基盤を持つようになった。現在では女性だけではなく、子どもたちのために各村
に補習塾をひらいたり、子ども対象のプログラムを多く開催し、子どもたちがあらゆることに挑戦できるような機会をあたえている。
公演活動は17年の間になんと2,000回を超え、30~40万人以上の人々が、ダリット女性たちの訴えかけを見たり聞いたりしたことになる。 ‘08年にはヒューストン国際ドキュメンタリー映画フェスティバルで、シスターチャンドラの活動をドキュメンタリーにした作品が金賞を受賞しているという。
チャンドラさんは、これまでに約300人の高い資質をもった女性リーダーを育て上げた。彼女らはそれぞれの村を中心に、村全体のサポート、行政との橋渡し、子どもの教育といった活動に堂々と従事し、以前に泣き寝入りしていた女性とは思えないほどめざましい活動をしている。
現実を映す民族芸能で人材養成を行なうシャクティセンターでのチャンドラさんの活動は、現在も続けられている。
受賞の言葉
社会貢献賞の授賞式が行われた2008年11月17日は、私の生涯におけるかけがえのない日となりました。私の貢献は、大海におちたたった一滴の水に等しいのですが、このたびの受賞は今後の仕事への大きな励ましとなり、勇気をいただいた気がします。そして何より、おかげさまで初めて日本を訪れることができました。日本のたくさんの人々とのつながりができ、私たちを心から応援してくださる方々に出会いました。日本の子どもたちのためにも協力してほしいとのご要望に、是非こたえていきたいです。長い間継続して草の根活動を表彰してこられた社会貢献支援財団様のお仕事に、心からの深い敬意を表します。