特定分野の功績
小松 修
舶用エンジンの軸受けは、クランクシャフトなどエンジン駆動部と固定部の間に設けられる部品であり、エンジン駆動部の動きを滑らかにするものである。この軸受けがなければ、これらの部分間で焼き付けを起こし、エンジンが動かなくなるなど重大事故が発生する。舶用エンジンにとっては、なくてはならない部品であり、駆動部が長時間滑らかに動くよう、均一かつ細密に製作する必要がある。また、材質として摩耗合金ホワイトメタル(錫を主成分とする摩擦を減少させるための比較的柔らかい合金)が使われている。
ホワイトメタル軸受けの完成に至る諸工程の中で、最も繊細で経験を要するのが鉄の裏金に減摩合金ホワイトメタルを鋳造、密着させる工程で、軸受に命を吹き込む為に大切な作業であるこの工程は長年の経験と熟練した技によって支えられている。
小松さんは昭和45年同社に入社以来、38年間に亘り一貫して鋳造の職場に勤務し、大から小に至る様々な形状の軸受けの鋳造作業に携わってきた。特にここ十数年当人がリーダーをつとめる大型製品鋳造ラインは4名の鋳造員によって構成され、息の合った手早い型組みから始まって、溶融したホワイトメタルの温度管理や冷却のスピードとそのタイミングなど、高度なチームワークが無ければ高品質な製品ができあがらない大変難度の高い作業で、本人自身が持つ優秀な技能に加えて優れたチームリーダーとしての資質も発揮している。
中でも鉄の定盤の上に鋳造品を型組みし、中心部分に丸い治具を設置したのちホワイトメタルを注湯、鋳造してゆく置注鋳造方式では、注いだ湯の温度の変化や凝固してゆくスピードを自分の目と手の感触で確認し、都度最善の対応を図って品質を高めてゆく当人の技はまさに職人芸で、永年の経験と本人が持つ独特の勘によって築き上げられた他に真似のできない卓越した技である。
またもう一つの鋳造方式である遠心鋳造方式においても、以前は人の勘だけに頼っていた冷却のタイミングとスピードを、当人の努力のもと多くの社員の協力を得て自動制御化する事に成功。現在は低速舶用ディーゼルエンジンの主軸受にその技術が生かされていて、総ての軸受けが同一の高い品質で作り上げられるこの技術は、多くのエンジンメーカーから称賛されている。
平成9年からは後進の指導にも大変熱心で、日々作業を行う中で自分の目と手を最大限に使いながら、鋳造上重要なポイントをクリアして行くその技を、一人でも多くの若手技能者達に伝授し、舶用エンジン界の発展につながるよう努力を続けている。
受賞の言葉
永年舶用エンジンの軸受の鋳造作業に携わって参りましたが、この程誉ある表彰に浴しましたことを大変光栄に思います。受賞に際して、ご推薦を賜わりました関係機関の皆様方に心より御礼を申し上げます。鋳造工として、38年間にわたり一貫して鋳造に携わってまいりましたが、今後も後継者の育成と、すぐれた技術者を育て上げることを目標に頑張りたいと思います。