社会貢献の功績
佐々木 豊志
佐々木さんの活動の原点の1つは、盛岡での中学校生活で野外教育を取り入れた学校カリキュラムを体験したことである。当時その中学校は非常に荒れた環境にあったことから、有志の先生方が中心になり、岩手山に登山する野外教育や農作業体験を行うことで、学校の問題の解決を図った。このカリキュラムに参加し、体験を通じ、野外教育の大切さを痛感した。
そして、もう1つの原点は、ドイツの教育学者クルト・ハーンが提唱したOBS(Outward Bound School)という冒険教室(若者が社会という大海原へ旅立つための最終準備をする学校)という考え方である。ハーンは「大人の義務は、若者に様々な経験をする場を作ることであって、自分たちの考えを押しつけることではない」と教えた。佐々木さんはその「場」を作って、ハーンの理念を子どもたちに伝えたいと思った。
佐々木さんはこれらの原点と東京での就業体験を経た後、活動を開始した。奥さんの実家のある栗駒に移り住み、平成8年に私費を投じて「くりこま自然学校」(「学校」)を開校した。
子どもやその家族などとともに栗駒山の自然から享受する本物の豊かさに学び、キャンプなど自然体験を通じクリエイティブな生き方を模索する。不登校や引きこもりなどの悩みを抱える人をサポートする寄宿制度を開始(12年)、「山の暮らし」をテーマに大自然の中で1年間を過し寮生活をしながら、町内の小中学校に通う山村留学制度を併設(14年)した。
翌年には特定非営利活動法人くりこま高原・地球のくらしと自然教育研究所を設立し、18年には厚生労働省の委託事業として、引きこもり、ニートの就労を支援する「くりこま高原・若者自立塾」の取り組みや、子どもたちが自然とふれあうことで、自主性や感受性をはぐくむ取り組みとして「森のようちえん」を開催し、自然体験や冒険体験を行いながら、子どもの健全育成や若者の就労支援などの活動を行っている。
さらに、地域とのつながりも大切であるとの考えから、19年に設立された、地域づくりを中心に活動する特定非営利活動法人「夢くりはら21」にも参加し、地域の活性化にも取り組んでいる。
栗駒山の高原の森にある「学校」は、2万坪近い土地に5棟の施設と畑や家畜小屋、キャンプ場などをもち、平成12年から始めた長期寄宿制度は7年間で70名を超える児童や若者を受け入れている。
しかしながら、20年6月に発生した「岩手・宮城内陸地震」により学校は勿論栗原市の耕英地区も壊滅的な打撃を受け、復興の見込みは立っていない。学校は現在、麓の借家で運営(寮生、スタッフなど15名)されている。
こんな中で佐々木さんは「あきらめたら誰も応援してくれない。何もしないより、だめもとでもやってみるほうがましだ。」と、イチゴ農家やイワナ養殖を営む住民などとともに再生の第一歩に向けて立ち上がっている。
受賞の言葉
6月に岩手・宮城内陸地震で被災し、自然学校のスタッフと寄宿していた子どもや若者は大きな試練を体験しました。先が見えないこと、結果が保証されないこと、このような状況でも一歩踏み出せる勇気と行動力を持つことこんなことを言い続けてきたことを認めていただき、これまで支えてくれた家族やスタッフに深い感謝の気持ちでいっぱいです。