社会貢献の功績
安田 謙志
奄美大島(あまみおおしま)は、九州南海上にある奄美諸島(8島)の主要島である。島の伝統工芸の大島紬(つむぎ)は有名であるが、和服を着る習慣が衰退したほか、韓国や中国産の紬の輸入などで、売上もかつての1/10程度に落ち込んでいるという。
安田さんは、島内の名瀬市の大島紬の機屋(おりや)に生まれたが、学業を終えると金融マンの道に進んだ。しかし、やがてものづくりの世界に戻り、京都の着物問屋での修行やメキシコ・アメリカ・インドでの染織探訪の旅の後、「奥深い織りと染めの世界」を極めるために、奄美の龍郷(たつごう)町に「花ろまん染織」工房を開設した。
手熟師会は、平成5年に島の異業種の交流を目的に始まり、染織、陶芸、島唄、炭焼き、ハーブ栽培、お菓子づくり、蝶の収集、写真、自然体験などの手熟師が集まった。いずれも島を代表する技能者の交流を続けるなかで、島の文化を忘れたり、知らない大人が多くいることや特に子供は全く知らないということに気付き、会として島の文化を伝える活動を行なうことにした。
平成12年から各手熟師が講師になり、博物館探検、つる性植物の籐(とう)を使った壁掛け作り、写真撮影、サンゴやウミガメの生態などの「子供手熟師講座」を高校生から幼稚園児までを対象に年間20回前後開講している。開講式には、百人近い親子が参加するなど、ものづくりを通した貴重なふれあいの場となっている。活動は会費だけで運営されている。
安田さんは島の子供たちの創造力を高め、優れた技能の継承活動を続ける一方、染織家の手熟師として、明治期までは受け継がれたが、その後消滅したと言われて来た織物「奄美花おり」を復元させた。
奄美花おりは、50センチ単位から作れることから、染織家の個性が出やすく、大島紬と同じ糸を使うなど紬の技法を生かした織物であることから、花おりを成熟させれば、大島紬を活性化させる可能性もあるといわれている。
安田さんは「手熟師会のメンバーの名人を増やし、技能を向上させるとともに島の子供たちに優れた島の技能を伝承する輪を広げていきたい」と活動を続けている。
受賞の言葉
名誉ある賞を頂き有難うございました。厚く御礼申し上げます。「大島紬」の発祥地で 産地の奄美大島。この島で育まれ生かされ、何か一つなりとも恩返しをと取り組んできた 「幻の花織」の復元。その活動が思いもよらぬ評価を受け、皆様方の激励を受けましたことは、 私自身の人生の金字塔となりました。
また、次代を担う子どもたちに島の伝統文化を伝える活動も一層その必要性を痛感して います。賞を励みに研鑽と精進を重ねて参ります。トウトガナシ。