社会貢献の功績
菱田 慶文
菱田さんは、早稲田大学大学院に在籍し、スポーツ人類学(ムエタイの文化)を研究する一方で、プロ格闘技のシュートボクシングの選手でもある。平成14年に大学の教授を通じて、台東区のスクールパートナー(教育相談員)として、区内の中学校に派遣された。台東区は独自に学校が必要とする人材を選び、常勤の教育相談員として1年更新で配置している。理科や歴史を研究している大学生や院生で、単科目の専門分野への派遣や荒れている学校へ柔道部の学生が派遣されることなどは、一般的な傾向でもあるという。パートナーとして荒れている学校へ派遣されても、怖そうだから来たときだけはおとなしいふりをするなど、特に家庭環境に問題を抱える子どもたちの多い学校では、なかなか通用しない現状でもある。
派遣された学校は、非常に荒れていると指摘を受けた中学校であった。学校の倉庫だった部屋を整備し常勤した。不良傾向のある生徒の相談相手として3か月ほどで沈静化し、明るい中学校に甦ることになった。それは、原因となっている生徒に「弱い者いじめではなく、強いものが弱いものを守る学校になれ。おれ達がいるから安全な学校だというふうになれ」という指導を行ったことが効果的であったという。
また自身が格闘家であることから、校内でも同競技のプロ選手による指導も行うようになった。やがて希望者が多数となり、平成16年には地域の協力も得て、同区内の廃校になった中学校を借り受け、仲間と共に格闘技道場(RIKIGYM)を主催し、パートナーとして派遣された中学校以外の生徒もすべて受け入れ指導を行なっている。
不良傾向のある少年、いじめられっこ、リストカットの少女、中には父親を殺害された小学生、家出をしホームレス生活をしていた中学生、幼少期に覚醒剤中毒の父親からDV(注)を受けていた少年、親が育児放棄に近い少年少女、睡眠薬依存症の少女など様々な問題を抱える少年少女が道場に集まった。
道場では二つの約束をさせる。1つは弱い者いじめをしない。そしてもう1つは道場の名前を汚さないである。少年少女と大人が共通の居場所の中で、スポーツを通じて交流することにより自然と本来持っている素直な気持ちを蘇らせた。
菱田さんは、格闘技というスポーツを通じて、少年少女に自分を鍛えぬき、自分自身と闘うことで、それぞれの障害を乗り越え、立ち向かう心を養成するとともに努力することの大切さを教えるために活動を続けている。
(注)ドメスティック・バイオレンス(DV)[domesticviolence]夫や恋人など親密な関係にある、またはあった男性から女性に対する身体的・性的・経済的・心理的暴力および子どもを巻き込んだ暴力をいう。
受賞の言葉
このような立派な賞を自分が頂いて良いのか、と思うばかりです。推薦なさってくださった藤本様や、道場の師範、仲間に感謝しています。自分が出来ることは、格闘技の良さを子供達に伝えていくことです。子供達に殴られたら痛いと言うことだけでも伝えられたら、強くて優しい大人に育つと信じてこれからも頑張っていきます。