第二部門/多年にわたる功労
根本 昭雄
フランシスコ会の根本神父は1991年60歳で南アフリカ共和国に赴任した。同地で猛威を振るうエイズで、貧しい人々特に幼い子供が次々と死んでゆく現実を目のあたりにして、エイズ患者のケアに全力を尽くすことを決意し、ヨハネスブルク郊外の末期エイズ患者ホスピス「セント・フランシスコ・ケアセンター」で、エイズ患者の心のケアと看護に携わってきた。
ケアセンター約74のベッドの半数には乳幼児の患者、残る半数には成人の患者が収容されている。患者はここに入って平均3日で息を引きとる。生きてここを退院した人はいない。嘔吐が始まると死は数時間のうちにやってくる。マザーテレサの「死を待つ人の家」を思わせるが、ここでの生存期間はそれより遙かに短い。根本神父が看取った患者は毎年数百人に上る。神父は朝晩2回全ての患者を見回り、爪をきってほしい、足をさすってほしい、髪を切ってほしいなど、一人一人の要望に応え、またカウンセリングを行う。耐えられないほどの痛みとだるさを訴えるエイズ末期患者の足をさする神父に成人の患者は喜びを表すが、幼児の患者にはその元気すらない。大切なことは彼らが人間の尊厳を保ちながら喜びと平和のうちに神のもとに旅立つことだと神父は言う。
世界のHIV感染者約4000万人の3分の2はサハラ以南のアフリカ諸国に集中し、南ア連邦の人口4400万人のうち、HIV感染者は500万人を超えて年々増加している。HIV感染の母から生まれた幼児の感染者も多い。エイズ問題はアパルトヘイト後遺症や貧困の問題と切り離せず、その解決の道は「命の教育」しかないと根本神父は信じて青少年の教育に取組んできた。神父はまた、孤児・身障者・ハンセン病患者の福祉向上に努め、スラムでの相談活動や食糧・資金援助に力を尽くし、更にエイズ患者同士の国際交流と連携、国家間協力の必要性を説いて止まない。一昨年秋から神父はロシアに移り、ストリートチルドレンやエイズ患者の水面下での急増など同国が抱える困難な問題との取組みを始めている。
受賞の言葉
私は南アで、黒人地区の教育とHIV エイズ患者のケアに私の毎日を奉げて来ましたが、正直、私は、彼らに何もしてあげることができませんでした。しかし、この度の表彰で大きな励ましと力を頂きました。頑張って生きます。