第二部門/多年にわたる功労
岩田 美津子
先天性盲目の岩田さんは、視覚障害者の夫との間に生まれた我が子に絵本を読んでとせがまれた時、目の見えない自分は読んでやれないとの事実の前に止まるのではなく、「見えないけど、読んでやれる方法がないか」と考えた。そして目の見える周りの人たちに働きかけ、長い間探し回った末、現在使っている透明な塩化ビニール・シートに辿り着いた。一般に市販されている絵本の文章を塩化ビニール製の透明なシートに点訳し、原本の活字部分に貼り、また、同じシートで絵の形に切ったものを貼り付けたり、説明文を書き添えたりして、目の見える人と見えない人が一緒に楽しめるように工夫した絵本である。岩田さんはボランティアの協力を得てこの点訳絵本作りに励み、その数を増やしていった。
「点訳絵本を作るといっても私自身が作る訳ではありません。私は幸いにも良いボランティアの方々に恵まれたから、絵本が出来、それを子どもと一緒に楽しむことが出来ました。けれども、こうしたボランティアに恵まれない、視覚に障害を持つ親が他にも沢山いるのですから、そうした親達にも、是非この楽しさを味わって貰いたいのです」との願いから、岩田さんは1984年に自宅に家庭文庫「点訳絵本の会 岩田文庫」(91年に「てんやく絵本 ふれあい文庫」と改称)を開設した。手持ちの点訳絵本蔵書数は約180冊、点訳ボランティアは1グループと3名、発送ボランティアが3名の支援態勢で、読者は3名のスタートであった。そして任意団体「てんやく絵本ふれあい文庫」が、点訳絵本の製作と全国の利用者への無料貸し出しを始めてから22年になる。現在約8,000タイトルの蔵書を有し年間6,400冊の本を全国の160家族及び21の点字・公共図書館・盲学校などの施設に貸し出し、120人を超えるボランティアが点訳や発送の部門を担当している。また岩田さんは、郵政省との3年に及ぶ折衝の末、点訳絵本の郵送無料化を実現して読者数を増加させ、点訳絵本の推進に貢献された。
受賞の言葉
このたび社会貢献者表彰というすばらしい賞を受賞できましたことは、私にとって喜びであると同時に、大きな驚ろきでもありました。というのも私が永年取り組んでまいりました点訳絵本の製作と貸出という活動は、社会における限られた方々へのサービスであり、非常に地味な活動だからです。そうした活動に対して、このような評価を頂けましたことに、心から感謝しています。
私はこつこつ積み上げていくことしかできませんが、この受賞を励みとして、今後の絵本を必要とする見えない人たちが、いつでも、どこでも、気軽に絵本を楽しめる環境を整えたいという目標に向って点訳絵本ならびに点字付き絵本の普及に努めてまいりたいと考えています。ありがとうございました。