大恩寺(ベトナム寺院)
ベトナム出身の僧侶ティック・タム・チーさんが住職を務める埼玉県本庄市の寺院。タム・チーさんを中心に、在日ベトナム人の支援を行っている。ベトナムの信心深い両親の元で生まれ育ったタム・チーさんは7歳で出家。ホーチミンの尼寺で修業を積んだ後、日本の文化と大乗仏教を学ぶために2001年に日本の大学へ進学。その後、東日本大震災で被災したベトナム人約100名を大使館と連携して港区のお寺で受入れ、共同生活を送りながら生活支援を行う。こうした活動でタム・チーさんの名が在日ベトナム人に広く知られるようになった。タム・チーさんは一般社団法人「在日ベトナム仏教信者会」を設立し、大恩寺を拠点に全国の在日ベトナム人仏教徒へ伝道を行いながら、生活困窮、精神的不安、帰国支援などの問題を抱えた留学生や技能実習生を支援し続けている。コロナ禍で更に生活に困窮し、住居も失い、職にも事欠くベトナム人が増加したが、大恩寺では多い時に約70名を保護。衣食住を支援し、技能実習や就職活動の支援も行っている。今年は駆け込み寺として利用するためリフォーム中だが、今後も一人でも多くの人を支援したいと活動を継続する。
2020年に発生した新型コロナウィルス(Covid-19)の流行は、世界中に猛威を振るい、多くの人のいのちを脅かすばかりでなく、経済や人間関係などにも深刻な影響を及ぼしています。日本でも感染は拡大し、人々に大きな不安をもたらすとともに、新たに大勢の困窮者を生み出しています。
なかでも、日本に暮らす在日外国人への影響は大きく、彼らの多くが地域社会における生活の継続が困難な状況になっています。
そもそも日本政府は少子高齢化で働き手の少ない日本の労働を支える貴重な人材として、十年ほど前からベトナムをはじめとするアジア諸国の若者たちを技能実習生として招きました。
現在、国内の外国人技能実習生の数はおよそ42万人にのぼり、そのうちベトナム人技能実習生は22万人といわれます。いまや日本の労働を支える上で欠かすことができない存在となっています。ところが、新型コロナウイルスの蔓延によって経済的困難を抱える在日外国人たちが増加しても、彼らの生活を支援する制度などは未整備のままで、経済面・医療面・生活面でも、ひっ迫した状態が続きました。そのため、昨年度には働く場所も、住む場所も失った在日外国人が路上生活を余儀なくされたり、罪を犯していないのに、助けてほしくて警察に駆け込んだりする者もあらわれました。
行き場を失った日本に暮らすベトナム人たちのなかには、困窮の果てに自らいのちを断とうとする者もいます。また、法外な低賃金で休みなく働かされ、過労でいのちを落とす者もいます。そのように極限まで追い詰められても、困っている在日ベトナム人たちは、言語の壁や偏見・差別の問題もあって、相談することさえできない状況があります。現在、そんな彼らの駆け込める場所「東京大恩寺」の設立が急務であると考えるに至りました。
住職 ティック・タム・チー