特定非営利活動法人 蜘蛛の糸
日本一自殺死亡率の高い秋田県で、さきがけとして2002年から自殺防止に取り組む活動を、行政・大学・民間団体と連携して行っている。創設者は自身が経営者の苦悩を経験し、同じような状況で死を選んだ友人も多くいた事から、中小企業経営者の自殺を食い止めたいと活動を始めた。
一般的にいのちの電話は傾聴を中心に行うが、蜘蛛の糸は問題を一緒に解決していこうと、相談者に積極的に関わり寄添うのが特徴で、電話相談だけでなく、宗教家・臨床心理士・弁護士等有資格者による面談を行い、多重な問題を抱え自死を考える人に対して、一つ一つの問題を共に解決する手法を取る。定期的に「いのちの総合相談会」の開催を告知し年間250人程が相談に来る。抱えている問題の全てを聞取り、どうのように解決するかを考え、クリアしていくことで、相談者は生きていく希望を見つけることが出来る。
また、聞取り内容の統計を県に提出し情報共有を行う等、自殺死亡率全国一の汚名返上の為、民間主導で秋田モデルといわれる先駆的団体。
「感謝の言葉」
この度、公益財団法人社会貢献支援財団の「社会貢献者表彰」という映えある賞を受賞できましたことは身に余る光栄であります。令和元年11月25日の授賞式典に参加し、大きな刺激と感動を得ました。前日の会食の場では受賞者の皆様の情熱に圧倒され、当日の式典では受賞者の活動内容に胸を打たれたのです。私は受賞者を代表して挨拶を述べなければなりませんでした。メンバーの多彩な顔触れや活動を紹介するスクリーンの動画を見ているうちに感動に揺さぶられました。「日本には素晴らしい人達がいる」いう余熱の残ったままに登壇しました。挨拶は、しっかりリハーサルしたつもりでしたが、登壇まで数分の間に「日本は素晴らしい」そして、「Japan is a beautiful country」という言葉が自然に脳裏を走り抜けたのです。
秋田で生まれ、秋田で育ち、「美の国秋田」をこよなく愛している者です。美しい山河、どこにでも噴き出す温泉、美酒、真面目で温厚な県民性、そして美人の国秋田であります。山登りが趣味で、酒好きにとって、これ以上の自然環境と社会風土の良い地方はありません。その我が愛する秋田県で「自殺率全国一」が長年続いている現状に耐えられませんでした。2001年5月の連休に友人の経営者が、秋田と岩手の県境にかかる高架橋から投身自殺しました。その報に触れた時に、湧きあがったのは激しい怒りの感情でした。戦後経済を復興させ、地域経済を支え続け、雇用や納税や商店街の賑わいに貢献してきたのは中小企業経営者たちです。中小企業経営者を「倒産如きで自殺させてはいけない」という激情のままに2002年6月に特定非営利活動法人「蜘蛛の糸」を設立して相談活動を開始しました。当時は自殺対策基本法がありません。地域で活動していると「医者でもない貴方に自殺を食い止められるはずがない」、「自殺は個人の責任だから干渉するな」とか言われましたが、一人で黙々と相談を続けておりました。
2005年5月、自殺対策基本法の制定に向けて参議院議員会館での法律の制定陳情、10万人署名活動に参加し、日本に自殺対策基本法が制定されたのは2006年6月であります。日本は自殺者数「3万人時代」が7年間を経て、ようやく「国民のいのちを自殺から守る」対策がスタートしたのです。自殺対策基本法の成果は大きく、施行後の10年間で全国自殺者数は「3万人台」から「2万人」台と約3割減少しました。秋田県の自殺者数も2003年の519人をピークに2018年は199人と約6割減少しております。自殺対策に向き合う姿勢はすべて現場にあります。現場に立ち、現場の臭いや風を感じ、現場の悲しみに向き合う。そして、「個」の相談経験を「点」につなげ、歳月をかけて「点」を「面」に広げて「ネットワーク」をつくり上げていきます。これまで県内の民間団体の創設、自殺予防県民運動を立ち上げて来ました。幸いに秋田県の自殺率は減少し、平成最後の年(2018年)にワーストを抜け出し、全国4位に改善されました。自殺対策は人間総合対策です。いち個人や一つの団体では自殺をくいとめることは難しいというのが18年間の活動の帰結です。世界に先駆した日本の自殺対策、そして日本の対策を先導する「秋田モデル」は前例のない「生きる支援」のパイオニアになるでしょう。不撓の精神を固持して「愚直であれ」、「愚直であれ」と自己の内面に働きかけて「県民のいのち」を守る活動を続けます。この度の社会貢献者表彰の授賞式で多くの仲間に接し、日本の素晴らしさと人材の豊富さに胸を打たれながら「美の国秋田」で、さらに、生きる支援活動を続けることを決意しております。
理事長 佐藤 久男