社会貢献の功績
池上 千寿子
幼少期や進学時に「女のくせに…」と投げかけられた性差別発言が起因となり、国内やアメリカで女性史やセクソロジーを学び、タブー視されがちな、人権にまつわる「性」の問題に取り組み、世の中の性に関わる定説は「思い込みと偏見である」と執筆や翻訳、社会活動を通じ「性」についての啓蒙活動に取り組んでいる。1982年ハワイ大学「性と社会太平洋研究所」に所属、アメリカ本土でエイズ発見によるパニックと差別報道に接しアトランタで開催された第1回国際エイズ会議に出席し、ハワイエイズNGO活動に参加以来「性・社会・エイズ」をテーマにしている。1994年にNPO「ぷれいす東京」を設立し、種々のプログラムやトレーニングの実践を始め、アジアで初の国際エイズ会議開催に尽力した。HIV陽性者への直接支援を中心にコミュニティや行政、医療と信頼関係を気づきながら「研究と研修・直接支援・予防啓発」を掲げ活動している。
1975年、メキシコシティーで開催された第1回国際婦人年国際会議にフリーのジャーナリストとして参加して以来、性とジェンダーをテーマに活動を続けて50年がたちました。50年前、性や体についてはほとんど情報がなかったし、とくに女性が性を語るなどタブーだったのですが、ウイメンズリブという新しい女性運動により女性たちが性について語り始め多くの著作が生まれました。それらを翻訳して日本の仲間に届けながら、セクソロジーという学問領域があることを知り、1982年にハワイ大学性と社会太平洋研究所でミルトンダイアモンド博士の教えを受けました。それはちょうどエイズが登場して1年目のことでした。エイズはHIVというウイルスによる後天性免疫不全症候群のことですが、HIVは主に性感染でしかもゲイの男性から感染が広がったために、理不尽な差別や偏見にさらされてしまいます。それにより「性、病気、社会」というあらたなテーマをいただきました。
ハワイでエイズNGO活動に参加し、性感染は社会的病であり、医学だけで解決はできないこと、性についての基本的な理解が社会に必要であることに気づき、日本でエイズNGOぷれいす東京を設立しました。しかしエイズの活動といえば事務所も貸してくれません。性感染は自己責任でなぜ支援活動などするのか、という目でしかみられませんでした。
それでもつねに仲間に恵まれ、「直接支援、予防啓発、研究研修」という3本柱での活動を続けてきました。毎年9月には新人ボランティア研修を行い、毎年20人ちかくの研究終了ボランティアが誕生します。とくに最近ではHIVとともに生きながらボランティア活動に参加する人が増えました。かつて支援活動プログラムに参加し、自分は一人ではない、仲間がいることで力を得、次はプログラムを企画運営することで社会参加、仲間支援につなげようということで、NGO活動の醍醐味ではないかと思います。
現在はぷれいす東京の理事、性教育協会の運営委員、エイズ&ソサエティ研究会議副代表などを兼任し、中学や高等学校で性教育を実践したりしながら、行政、医療、民間の協働による社会環境整備「だれもが安心して病を発見し、安心して病とつきあえる社会」をめざして活動しています。性は生きることの基本にありますが、敬遠されてばかりいます。今回社会貢献表彰をいただいたことはほんとうに励みになります。各地に多くの仲間がいることを知り、力をいただきました。ありがとうございます。