東日本大震災における貢献者表彰
今村 久美
高校生へキャリア学習の授業を行うNPO法人カタリバの代表で、震災直後に被災地の子どものために街頭募金を行ったが、一日一日と募金額が減っていくのを見て、時間が経つにつれ支援が先細りすると考え「東日本大震災時に0歳だった赤ちゃんが、無事にハタチを迎える日まで」をコンセプトにした期限付きの「ハタチ基金」を提唱し、他団体と協働して設立に参画した。その上で4月に宮城県に入り、現地で教育関係者や子ども、親などにヒアリングを重ね、女川町では、望まれている学習スペースを同町や教育委員会と連携してコラボ・スクール「女川向学館」を設立し、230人の小中学校に学習指導を行っている。
この度は、栄えある賞をいただき、大変有難く思っております。皆様に、私たちが運営する放課後学校「コラボ・スクール」を紹介させていただきます。
私たちが立ち上げた「コラボ・スクール」は、被災地で勉強する場所を奪われた子どもたちに、学習指導をする放課後の学校です。全国から集まったご寄付で、震災で失業した元塾講師などの地元住民を雇用し、地元教育委員会やボランティアの方と協力して、子どもたちに学習環境を提供しています。
現在は、宮城県女川町の「女川向学館」と、岩手県大槌町の「大槌臨学舎」の2校舎を運営しています。
なぜ私たちは、東北に行こうと思ったか?もちろん、「可哀想な子どもたちのために何かしたい」という想いもありました。
しかし、一番の動機は、「この被災地で、たくさんのものを失った子どもたちの中から、10年後に日本を支えるイノベーターが、生まれてきやすいのではないか?」と考えたからです。
たしかに、震災による悲しみは、子どもたちにとって、抗えない現実です。
私が昨年度、大槌臨学舎で受けもっていたクラスでも、26人中7人の生徒が親を失いました。ふとしたことで、家族の話題になると、目に涙を浮かべる子どもが、今もいます。
しかしその悲しみに向き合うのが、彼らの課題でもあります。この現実を受け入れて、自分自身で乗り越えていく。そのために私たち大人ができるのは、彼らに寄り添って、"悲しみ"を"強さ"に変えるための学習機会をつくってあげることです。
「何をやろうとしても、力が出ない・・」震災後は、そんな風に落ち込んだ子どももいました。彼らが、勉強を通じて「できることが増えた!」「昨日の自分より、一歩前に進んだ」そう実感することで、意欲が回復してきています。
学ぶことが、心のケアにもなっているんだと感じます。
また、私が昨年度在籍していた大槌臨学舎で、親御さんたちから喜ばれていることがあります。
それは全国からボランティアさんが1週間単位で来てくれて、代わるがわる勉強をサポートしてくれることです。生徒たちは、「はじめまして」「ありがとう」、そして「さようなら」を、たぶん日本で一番多く言う子どもでしょう。コミュニケーション能力は、確実に育っているでしょうし、なにより、震災前なら出会うことのなかった職業の方々、大学生たちと勉強の合間に話すことで、これまでは身近でなかった、広い世界を見通しながら、大きな未来を、思い描きやすい環境が整ってきています。
子どもたちが、震災の悲しみを乗り越えるのに伴走し、かつては与えられなかったチャンスを提供することで、感謝の気持ちと明るさ、そして力強さを持って、新しいことに挑戦する人が、この地から生まれるだろう。そんな思いは、彼らの語ってくれる将来の夢を聞いて、強くなりつつあります。
「避難所でやさしく励ましてくれた看護師さんみたいに、将来なりたい」
「福祉の仕事でお年寄りの方々のために働きたい」
「前は保育士になりたかったけど、病院で働く姿がかっこよくて、震災後、薬剤師を目指すことにしました」
「女川町はこのままではいけない。自分が女川町を支えられる人間になりたい。」
「ここで集中して勉強して、消防士になる夢を叶えたい」
日本中と比較しても、公共心を持って職業選択を目指す子どもたちが、本当に多くいます。
私のクラスでも、看護師志望が半分で、福祉の仕事が1/4、自衛隊希望者も2人います。"主体性"、そして"公共心"をもった子どもたちが育っていること。
この事実は、とてつもない被害と悲しみをもたらした震災の「希望」とも言える一面かもしれません。
実はこれを始めた当時、「この活動は3年間をめどに終わりにしてもよいのではないか」と思っていました。子どもたちが奪われた"学ぶ場"を確保して、失業した地元の塾の先生たちに、"雇用"を提供する。地元の方々の独立を支援して、私たちは徐々に手を引いていけばよいのではないか、と。
しかし今、生徒たちが震災という悲しい体験を"チャンス"に変え、たくましく育っているのを目の当たりにするなかで、この1年間、信じてきたことが、少しずつ現実へとなりつつある手ごたえを感じています。資金や人材など、現実的な問題はたくさんありますが、私は、このコラボ・スクールを3年以上続けたい。今は、そう思っています。
今回の栄誉ある受賞を機に、さらに精進してまいりたいと思います。
今後ともコラボ・スクールをどうぞ宜しくお願いいたします。