社会貢献の功績
髙橋 秀治
都内の盲学校を卒業後、点字出版一筋に情熱を注いだ。「社会福祉法人ぶどうの木ロゴス点字図書館の館長に就任し、常に点字の重要性と視覚障害者の読書の権利を守り、バリアフリーの普及に取り組み、一般社会の視覚障害者への理解を深める活動を推進している。統一されていなかった公共施設における点字表示を統一しJIS化、点字技能検定試験開始して厚生労働省に働きかけ公的認知、点字選挙公報全文発行への実現、点字図書給付事業(活字図書と点字図書の価格差補償)の改善、「考える図書館」作りなど約48年にわたって活動を続けている。
この度は、私たちの手がけた小さな活動に目をかけていただき、大変恐縮しております。心から感謝申し上げます。
おそらく受賞理由として、点字選挙公報の普及による視覚障害者の選挙権保障への歩みに注目されたからではないかと推察します。であれば、これは私一人でなし得た仕事ではありませんし、多くの人々に支えられて始めてできた共同作業ですので、まずそのことを強調させてください。
さて、一般に国政選挙や知事選挙には、政党や立候補者の政見が記された選挙公報が公共施設の人目につくところに置かれ、また、一般家庭にも新聞折り込みで無料配布され、等しく情報が提供されます。ここには市民の政治参加を促すと同時に、「知る権利」を保障する意味があります。ところが、視覚障害者には、点字投票が有効とされていますが、ごく一部を除いて選挙公報の全文点訳は配布されていませんでした。
その理由として一般には、(1)選挙期間が短くて大量印刷は無理、(2)点訳・発送する施設がない、(3)点字では公報全文点訳は無理、といわれてきました。
これらの解決法はごく常識的なものでした。(1)(2)は、大小の出版施設が共同作業をする、(3)写真を除けば、公報の文字はすべて点訳可能、という考えの元に、全国の点字出版施設が集まり、「互いにプロジェクトを作って、日本の視覚障害者を代表する施設の中で製作・配布したらどうか」という結論を得ました。そして、平成16年の参議院選挙を皮切りに、「日本盲人福祉委員会視覚障害者選挙情報支援プロジェクト」として、これまで5回の国政選挙を手がけてきました。平成19年の参議院選挙からテープ版、拡大文字版も加わり、各地の選挙管理委員会のご理解も得ております。特に印象深かったのは、平成19年の衆議院選挙で最高裁判所の国民審査を配布したとき、視覚障害利用者から「国民審査は初めて読んだが、文章は硬いけれど、これほど面白い内容とは思わなかった」という喜びの声が寄せられました。視覚障害者は一般に情報障害者と言われますが、私たちはそのバリアの一角を崩せたのではないかと思いました。
近年、国連の定めた障害者の権利条約の批准をめざして、国の関係者や当事者である障害者団体との間で検討が進められています。その一つの現われでしょうか、昨年暮れから総務省の担当課では、「選挙公報の全文発行を地方選挙にも広げ、多くの障害者に配布するように」という方向を示されました。まさに歓迎すべき事態です。
もちろん、小さなトラブルはありますが、今後とも国民の情報保障の一環として視覚障害者への情報提供の活動が更に進展するよう、皆様のご理解・ご協力をお願い申し上げる次第です。有り難うございました。