受賞者紹介

第60回 社会貢献者表彰
こうせいほごほうじん びさくけいさいかい ふるまつえん

更生保護法人 備作恵済会 古松園

(岡山県)
更生保護法人 備作恵済会 古松園 常務理事・施設長 岩戸顯
常務理事・施設長 岩戸 顯

明治30年(1897年)に政財界の有志により岡山県岡山市に開設され、罪状に関わらずあらゆる受刑者を受け入れて再犯しない自立への道を指導している、全国でも稀有な民間の更生保護施設。「感動、感銘を受けた時しか、人は変わらない」をモットーに、現施設長の岩戸顯さんが独自に構築した「特別指導」のプログラムを2008年から取り入れている。①自己の性格の問題 ②金銭の問題 ③対人関係の問題 ④家族関係の問題 ⑤立場による考え方の違いについて ⑥再犯をしない決意と生活設計について考える6単元。ロールプレイやドキュメンタリー鑑賞、入所者が感じたことを文章化する作業を通して、自分と犯した罪に向き合い、相手の気持ちを理解し、豊かな人間性の回復を目指す指導となっている。また保護犬によるドッグセラピーや生活相談、就労支援、医療支援の他、退所後のフォローアップも随時行い、社会復帰を手助けしている。

推薦者:NPO法人 食べて語ろう会 理事長 中本 忠子

更生保護施設における処遇やフォローアップ事業 の充実について

「先生帰ったよ!~」事務所に爽やかな声が響く。彼は、6年前に当園で保護していた者である。事件は、飲酒、パチンコ遊びによる浪費のため、姉2人にお金を管理され、思うように現金を入手出来ず苛立ちを募らせていた中、実母に浪費のことで文句を言われ激高して自宅に灯油を撒き、ライターで放火して家屋を全焼させ、寝ていた実母を焼死させたものである。軽度知的障害の本人が飲酒後、単純酩酊下で金銭欲求が満たされず、将来に希望が持てない怒りから希死念慮を募らせた悲惨な事件であった。懲役12年の判決になる。姉2人は地元に帰ることを強行に拒否したため、当園に入ることになった。当園の処遇理念は、彼らに感動・感銘を与え、自らの行動を振り返り、自らが立ち直るように気付かせることにあり、豊かな人間性を取り戻して、再犯をしない決意を固めさせものである。これらの処遇は、職員と彼らに信頼関係がないと、為しえないものである。

当園では、特別指導の一つとして、自分の犯した罪が、何が原因なのか、①自己の問題なのか、②金銭の問題なのか、③対人関係の問題なのか、④家族の問題なのか、⑤性格の問題なのか、を振り返って考えさせ、それぞれの問題についてドキュメンタリー番組を教材にして、例えば身体が不自由でも強く生き抜く姿、災害に見舞われてもなお苦しくても強く生きる姿等を見ることにより考えさせ感動・感銘を与え、自ら頑張ろうとする心の芽生えを醸成するよう働きかけている。感動・感銘を受けさせることなどにより心を大きく動かさなければならない、これが教育だと私は考えている。

当園では昨年度から保護犬(セラピードッグ、名前は「ケンタ」)を飼育している。犬はしゃべらないが、ものを言わない代わりに、表情で応えてくれる。仕事から帰ってきた在園者に耳をぺしゃんこにして、嬉しさを表現してくれる。少しでも、彼らの癒やしになれば幸いである。

冒頭の彼は、私を信頼し毎日のように就労継続支援B型事業所からの帰りに、当園に立ち寄り来ている。もう、かれこれ6年以上になる。今はアパートで一人暮らしをし、炊事をしている(一週間に一度、ヘルパーが来ている)。フォローアップ事業とは言え、誰がいつまで支援するべきなのだろうか。小手先の短期間でよいのか、エンドレスに行くためにはどのようにすればよいのか、悩ましいところである。

過日、フォローアップで訪問して来ていた元・在園生が突然、亡くなった。生活保護の受給者で、その葬儀に参列したが、見送りの家族の少なさに愕然とし、悲しかった。お棺に入れる少量のお花だけで、飾り花は無かった。生まれたときは、周りから祝福されていたろうにと思うと、やり切れない気持ちである。これが、更生保護施設の職員としてフォローアップの最後かと思うと空しさを禁じ得ない。心の繋がりを深く持ち過ぎることも、罪深いものと感じる瞬間がある。

  • セラピードッグの役割を担う保護犬のケンタ君
    セラピードッグの役割を担う保護犬のケンタ君
  • 施設長岩戸さんと保護犬ケンタ君
    施設長岩戸さんと保護犬ケンタ君
  • 高梁地区更生保護女性会の慰問
    高梁地区更生保護女性会の慰問
  • 話を聞く在園生
    話を聞く在園生
  • 特別指導の記録
    特別指導の記録
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