社会貢献の功績
山口 由美子
あの日、平成12年5月3日12時過ぎ、春の陽気に誘われて西鉄高速バスには博多どんたく見物などの客が多数乗車していた。佐賀駅を発車し20分ほどして、突然牛刀を持った少年が立ち上がり、バスはジャックされた。目的地の福岡市天神に向かわず、広島まで走り続けた。山口さんは友人と共に博多に行く途中、事件に巻き込まれた。友人は殺され、山口さん自身も10ケ所程(顔・後頭部・首・腕)を少年から切りつけられ、バスの床の上に転がされ出血多量で意識が遠くなった。
事件は翌日の朝方、広島県警の突入をもって解決し、山口さんは救急病院に搬送され、輸血と切られた10箇所ほどの縫合手術を受けて一命を取り留めた。入院中も退院後もずっと考えていたのは、少年のことだった。「私の子どもと、この少年の違いは何だろう?」幾度も幾度も考えた。
亡くなられた友人は小学校の教諭を経て、子育て・教育支援として「幼児室」を立ち上げ、「成績ではなく、子どもと向き合う」ということを、よく話していたことを思い出していた。
そして事件以来の「私の子どもと、この少年の違いは何だろう?」という疑問に一つの答えを得た。それは当時カウンセリングを受けていた佐賀県精神保健センターのカウンセラーが「あの子にも居場所があったらね・・・」とぽつりと言ったその言葉がきっかけであった。
以来、山口さんは被害者としての道ではなく「少年(子ども)の居場所づくり」のために進む事にした。
13年に友人の支えを受けて親の会「ほっとケーキ」を立ち上げ、翌年5月には子どもたちの居場所作り「ハッピー・ビバーク…山の休憩所」を立ち上げた。回りからの援助もあり、なんとか子どもたちが集まる建物を安価で提供を受け、山口さんの事件に正面から向き合う活動が始まった。
山口さんは、一人の社会人として、一人の親として少年と向き合い、このような少年を作らない社会を目指して、あの事件に立ち向かっている。大人がきちんと意識して子どもたちの居場所を作る事が大切であると、自らあの事件について宮城から鹿児島県まで全国で500回近く、様々な地域や施設で講演をした他、佐賀刑務所においても、毎月新入受刑者に「被害者感情について」の講話をしている。
平成19年1月、バスジャック事件の少年は23歳で、医療少年院から仮退院し、3ヶ月の保護観察処分を経て、社会復帰している。山口さんは事件を思い出すたびに、計り知れない恐怖と苦しみを何度も感じて来たと思われる。そのなかで彼のような少年による事件が再び起きない為の社会環境作りの活動を続けている。
受賞の言葉
我が子が不登校状態の時、回りから責められ我が子さえ育てばいいと思いました。事件との出会いの中で、育ち合う大事さに気づかされ、親の会・子どもの居場所を仲間と共に立ち上げました。学校に行っている・いないに関係なく、生きづらさを抱えている子どもの今に向き合う居場所でありたいと思います。共に活動しているスタッフや関わって下さる方々と共に頂いた賞だと受けとめ、心から感謝申し上げます。