特定分野の功績
大森 幸夫
合資会社は、明治38年の創業以来、熱間自由鍛造(注)一筋にプロペラ軸等の舶用製品を中心とした鍛造品の製造を行ってきた。大森さんは、昭和27年に鍛造工として入社以来、一貫して鍛造作業に携わってきた。同社製品は大型のため、鍛造作業は複数の作業者がチームを組んで行うグループ作業であり、極めて高度なチームワークが要求される。また熱間重量物を扱うため、作業者は常に高温に晒されるという環境で行われる。このような職場に永年にわたり従事し、技量を磨きチームリーダーとして、現場の監督者として、そして従業員の要として鍛造作業を行って来た。
グループ作業を行うチームを率いる大森さんは、鍛造作業途上の製品の変形具合、温度変化を的確に見抜きメンバーに指示を出して、鍛造プレス機と作業の双方の動きを巧みにコントロールしながら作業を進めていく。整形品の曲がり、倒れ、ねじれ、偏心などの修正は、永年の「勘」「こつ」「経験」に頼らざるを得ない聖域が多分に残されており、これらの要素を駆使することにより鍛造品を作り上げる技は同社内でも右に出る者はいない。
またパソコン制御によるプログラム自動鍛造にも取り組んだ。自由鍛造は、職人の「勘」「こつ」「経験」に頼る作業であるが、職人の暗黙知を形式知へ転換する上での橋渡し役を演じ、この職人技を数値化する事により、昭和60年に世界初となるパソコン制御によるプログラム自動鍛造を実現させた。
大森さんは鍛造班班長、職長補という立場で永年の現場を統率してきたが、平成6年からは、製造課係長という立場で生産計画、指示を担当するようになった。この業務においても、生産効率を最大限に引き出す事と材料の歩留まりを向上させたことは現場作業を熟知しているからこその成果といえる。
平成13年に定年を迎えた後も、現在に至るまで嘱託職員として引き続き同じ業務に従事する傍ら、難易度の非常に高い製品の鍛造作業においては、臨時チームリーダーとなり鍛造作業グループを差配し、また若手技能者の育成にも積極的に取り組んでいる。
(注) 熱間鍛造:材料の再結晶温度(鋼材は900℃)以上の鍛造加工を言う。熱間鍛造は1100℃から1250℃を言い加工後に再結晶して軟化するため可鍛性が失われない特徴がある。自由鍛造:加熱した素材を所要の形状に成型する。自由鍛造は大型部品や少量生産に適す。一方「型鋳造」は小型部品や量産品に適す。
受賞の言葉
永年に亘り自由鍛造を通じて舶用部品の製造に携わって参りましたが、この度の栄えある表彰に浴しましたことを、大変光栄に思います。受賞に際してご推挙を賜わりました関係機関の皆様方に、心より御礼を申し上げます。鍛造工として55年間研鑽を積んで参りましたが、今後も後継者の育成に注力し、優れた技能者を育て上げることを目標に、精進を重ねていきたいと思います。