社会貢献の功績
松﨑 靖
松﨑さんは大間々町で洋品店を経営し、見た目は変らないが心を磨くということにこだわり、自店のトイレの掃除を心掛けていた。
そんなある日、平成9年7月24日であった。同町の街づくりの勉強会にやって来た講師から「この町は自然に恵まれたいい町だが、大間々駅のトイレが汚い」と指摘された。それならトイレをきれいにしてやろうと思い立ち、仲間と翌日の金曜日の早朝6時から同駅のトイレ清掃を始めた。6時という開始時間は、始発電車が出発する前から清掃を始めようとのことである。これが活動のきっかけであった。
トイレ清掃はボランティアでやり、心磨きということから、やり方も徹底している。防菌用のハンドクリームを手に塗るものの素手にこだわり、トイレの床から水ごしの裏まできれいに洗う。時には目を背けたくなるほど酷い汚れの時もある。洗面台から嘔吐物が溢れ、床まで汚れ逃げ出したくなるような時も、自分達がやらなければ次に入って来る人が、同じように嫌な思いをすると思うと心が決まり手が動き出す。きれいになってくると気持も穏やかになる。
わたらせ渓谷の観光シーズンには、駅前に大型観光バスが5~6台も並び、トイレの使用頻度も高くなるが、きれいに磨かれたトイレを見て、地元の利用者を含め、使い方のマナーが年々よくなっているという。
10年程前に始められたトイレ清掃は、現在仲間6~7人で続けられ、平成19年8月24日の金曜日で527回目を迎えた。清掃の輪も広がり、平成11年には会員30名ほどの「郷土を美しくする会」を発足させている。会員の中には、自分の結婚式の当日にも朝のトイレ清掃をやった人がいる。
大間々駅で始まったトイレ清掃の輪は、現在、太田や新前橋の駅や高崎の公園のトイレ清掃に広がるとともに、近隣の小中学校の教育の一環としても実施されている。松﨑さんは小さい時に蒔いた種が、大きくなっていい花をつけてもらいたいと学校のトイレ清掃の指導も行なっている。
次にその小学生の感想文を紹介しよう。「はじめ、手でやるって聞いたときは、びっくりしたし、すごくいやでした。だれが使ったか分からないトイレだし、手袋もしないなんて、絶対いやだと思いました。松﨑さんは、はだしで入っていって、きたない部分も平気でさわる。すごいなぁと思いました。
便器のうら側をそうじすると、茶色いかびのようなものが手についてしまい、気持ち悪くてたまらなかったです。茶色い液体も流れてきて、きたなかったです。でも、がまんをしてやっていると、なんだかすごく楽しくなってきて、はまってきました。今までは、便器のうらまできれいにしたこともなかったし、45分間も真けんにやったことなかったです。
きれいになった便器を見ると、とても気持ちがいいです。家のトイレも、目に見えない所まできれいにしたいです。そしてきれいな状態を、ずーっと保っていきたいと思います」という感想である。
10年後には、トイレ清掃開始以来1千回を迎える。その時、この駅のトイレもこの街もそして街に住む人々の心も、今以上に美しく豊かになっているに違いない。
受賞の言葉
10年前に仲間数人ではじめた駅のトイレそうじが10年後にこのような形で高い評価をいただくとは夢にも思っていませんでした。いっしょに続けてきた仲間や活動を温かく見守ってきてくれた人たちに感謝しています。式典で内館牧子先生が言われた「先祖に恥じない行動、おてんと様は見ている」という言葉を大切にしたいと思っております。