社会貢献の功績
永井 雄人
白神山地は、青森県南西部から秋田県北西部にかけて広がる約13万ヘクタールに及ぶ広大な山地帯の総称である。このうち原生的なブナ林で占められている区域約1万7千ヘクタールが、平成5年12月に世界自然遺産(注)として登録された。
世界自然遺産に登録された区域は、自然環境の維持のために人手を加えないことになっている核心地域と森林の文化や豊かな自然にふれられる緩衝地域からなっている。
白神山地は広大なブナ林で、多種多様な生き物が住んでいる自然の宝庫であり、全く人の入らない森であった。永井さんは、まだ同地が世界自然遺産に登録される以前から、仲間と林道建設などで開発され、伐採されたブナの森の再生の活動と開発への反対運動を始めていた。
白神山地での植生の調査、研究や近隣の県・町などと植樹祭を開催するなどの活動を続けるなかで、同地が世界自然遺産として登録された。遺産に登録されてからは、同地のブナの木を伐採してはならない、また植林も同地のブナの木の実から育てた苗だけに限るとされた。
ブナの木は北海道から九州の山地に分布し、高さは25メートルにも達し、樹皮は堅く、灰白色で平滑である。5月頃黄色い花をつけ、実は秋に熟すが豊凶があり、豊年は通常5~7年に1回程度といわれている。ブナ林は多くの動植物を育み、渇水や洪水を防ぐなど保水機能が高いといわれている。
永井さんは、失敗を繰り返しながら、6~7年をかけブナを実から苗木に育てる方法を作り上げた。苗木は冬を前にまっすぐ伸びた苗が、雪で折れないように横向きに植えかえ、また春にはまっすぐに植え戻しながら、4年間で50センチ位に育て植林する。植林後も兎や雪害対策として、苗木に竹の串を添え、その上に土にかえるように出来た、トウモロコシの芯で作ったネットを被せるなど苦労を重ねてようやく植林に成功した。
永井さんは現在、廃校になった町の小学校を春夏秋冬の自然体験や白神の歴史を伝える「白神自然学校一ツ森校」として開校し、同校を中心に活動を広げている。学校の研修旅行で訪れた子供達や企業のCSR(社会貢献活動)の一環で訪れた社員などにより、「自然と人間の共生」をテーマにブナの木の植林が行なわれている。
永井さんは「中国大陸からの黄砂により、白神山地の土壌も酸性となるなどの影響が出始めている。広大な土地の改修には、材料と人そして行政の力が必要である。団塊の世代を取り組むなど人造りを行ない、30、50、100年後の白神山地を残すために現在を頑張りたい」と活動を続けている。
(注) 世界自然遺産 世界遺産とは、1972 年のユネスコ総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関す る条約」(世界遺産条約)に基づいて登録された文化・自然遺産をいう。自然遺産とは、顕著な 普遍的価値を有する地形や地質、生態系、景観、絶滅のおそれのある動植物の生息・生息地など を含む地域を対象とする。
受賞の言葉
今回の社会貢献賞素直に喜んでいます。しかし、こんな事、昔当たり前なことが今は評価されることに一抹の寂しさともどかしさを覚えてなりません。物が溢れ、豊かになった日本社会だけど「人を思う心」「想像力」は、どこにいったのでしょうか。白神山地の自然の中でいき、自然を観察し、自然によりそうように生きてきました。
次の課題は、己の人生にどう決着をつけるかです。今回の受賞はその出発点となりました。