第二部門/多年にわたる功労
野口 健
平成9年春、野口さんはチョモランマ(エベレストのチベット名)の公募登山隊に参加し、同山のごみが予想を遙かに超えた規模であることにショックを受けた。特に6,600m地点のベースキャンプ付近の残留物被害は深刻だった。至るところが登山隊の残した残留物や汚物でまみれていた。「まるで夢の島」というのが、その写真を見た多くの人の感想であった。しかもそれら残留物には日本、韓国、中国といったアジア諸国の登山隊のごみが多いことも驚きであった。翌年秋、サガルマータ(エベレストのネパール名)に挑戦した際にも、多くの日本隊の残留物を発見し、七大陸最高峰登頂達成の後は世界最高峰の清掃活動を目標とすることを決意した。平成11年に10年かけた目標を達成し、翌年春からエベレスト清掃登山隊を組織、清掃登山を開始した。
平成12年の第一次清掃登山は、清掃範囲を北稜6,600mから最終キャンプが設置される8,300m付近までとし、日本人登山家2人を含む総勢28人の野口隊が3月下旬から5月末の日程で清掃活動を行った。平成13年度の第二次清掃登山では「アジアの誇りエベレストはアジア人の手できれいにしよう」と各国に呼びかけ、日本、中国、ネパール、韓国、グルジアの5ヶ国から成る国際登山隊を組織、隊長として4月中旬から約1ヶ月間、標高6,400mから8,300m付近の清掃を行った。84本の酸素ボンベや50張のテント残骸を含む1,600kgのごみを収集し、うち500kgはいったん日本に持ち帰り、環境問題について考えて貰うために今後日本各地やソウル、北京などで展示する。野口さんは「今回拾ったゴミの大半は日本やアジアのものだった」と、登山家のマナー向上とエベレストの環境保持を訴えている。
登山家・田部井 淳子さんの推計によれば、エベレストのごみは少なくとも110tはあるという。「世界一高いゴミ捨て場」とまで呼ばれる世界最高峰を元の美しい姿に戻すため、野口さんの活動は今後も続くことであろう。
かつて世界遺産調査委員が「こんなにゴミで汚された山を世界遺産にはとても選ぶことが出来ない」と帰ってしまい、著名な登山家メスナーが「世界で最も汚い山」と呼んだ日本の象徴・富士山の清掃登山にも、野口さんは協力している。また、遭難したシェルパの遺族への補償や事故原因の調査を行い、シェルパに対する登山隊の意識改革を目指す「シェルパ基金」も平成13年末に設置を予定している。
【脚注】
野口 健公式ホームページ
http://www.noguchi-ken.net/