受賞者紹介

第56回 社会貢献者表彰
じあいかい じあいりょう

社会福祉法人 慈愛会 慈愛寮

(東京都)
社会福祉法人 慈愛会 慈愛寮 理事長 栗木 純子
理事長 栗木 純子

現在も女性と子どもの人権のために活動している日本キリスト教婦人矯風会の女性たちが、1886年(明治19年)廃娼運動などの拠点として資金を出し合い、購入した土地に建てた「慈愛館」にルーツを持つ婦人保護施設で、1967年頃に妊産婦専門の施設となった。慈愛寮に入所する女性たちは、ひとりで産前産後を迎えざるを得ない女性たち。そのほぼ9割が暴力被害の経験者で、生活困窮、家庭崩壊、教育の機会や居場所の喪失により、性風俗業で働かざるを得なかったなど、頼る身寄りや知人もなくやっとの思いで福祉に繋がり、慈愛寮へ辿り着く。2012年に建替えした際、「ここで暮らすことで傷が癒される場に」をコンセプトとし、全室個室化、温もりのある設備を充実させることができた。入所女性たちが妊娠出産を機に支援を受けることで生活再建が図られ、新しい命と共に新しい自分となって人生の主人公になっていけるような支援を目指している。平均入所期間は約2~4か月。

100年に一度のパンデミックと言われる新型コロナウイルス感染拡大の影響は慈愛寮にも及んでいます。新生児や産前産後の女性の支援施設ですので感染予防はかかせません。日頃から手洗、消毒には気を配っていましたが、さらに徹底して対処してきました。入所施設の使命がありますので職員はテレワークできません。職員の体調・メンタルヘルスの配慮をし運営・支援を継続しています。

慈愛寮の設立母体は、日本キリスト教婦人矯風会です。明治期に先輩女性達が、人身売買、性被害女性を救済する目的で寄付を集め土地を購入、慈愛館を設立したのが始まりです。関東大震災や第二次世界大戦による焼失などにより各地を転々とした後、再びこの地に再建しました。1956年に成立した売春防止法を根拠法として、社会福祉法人慈愛会が運営する慈愛寮は婦人保護施設として再出発。矯風会から「この事業が続く限り無償で土地の提供」を受けています。さらに1960年代には東京都の要請により、全国で唯一の周産期、妊産婦と乳児の支援に特化した婦人保護施設となりました。2001年10月施行の「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV防止法)」以降は暴力被害女性を受け入れる住所秘匿のシェルター機能も加わり、現在に至っています。入所するには、東京都の市区の婦人相談員を通して都女性相談センターに申し込みます。措置施設なので利用料はかかりません。妊婦で入所し、病院で出産後慈愛寮で数ヶ月過ごした後、退所先を相談して地域生活に移ります。退所後支援も実施し「実家のような」施設を目標としています。

目下の大きな課題は、婦人保護施設が売春防止法を根拠法としていることからの脱却です。被害女性を罰する売防法を根拠とするのではなく、女性支援のための新法が必要です。すべての人が平等に平和に生活していけるよう、婦人保護事業関係機関と共に法律の整備をめざしています。

まだまだ日本では、性被害は自己責任とみなされ、予期せぬ妊娠は女性だけが責任を負う状況が多く、声をあげづらい女性がたくさんいます。この度は、困難な問題を抱えた妊産婦女性たちが、新しい命と共に新しい自分になっていく、人生の主人公になっていける支援に着目していただき、心から感謝申し上げます。この受賞を励みに、これからも関係機関と連携して実践を積み重ねてまいります。

理事長 栗木 純子

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