社会貢献の功績
牟田 昭一郎
小さい頃からの本に対する渇望から、地域の幼児や児童を対象に、森の中の子ども図書館を造ろうと平成8年に私財を投じ敷地内に、子ども向けの絵本、図鑑など1千冊を所蔵するログハウス風の私設図書館「すぎの子文庫」を神埼町内に設立。地域のお母さんなどによる10名のボランティアとともに、図書の貸出や読みきかせ、すぎの子便りの発行など幅広く活動し、子どもたちの読書習慣の形成と青少年の健全育成や地域の和を広げるためにに活動している。現在、約3,500冊を所蔵している。
私は幼・少年期を戦前・戦中・戦後の動乱の時代を過ごした。農業の長男として生まれ父とは3才の時死別し、祖父の手で農業の後継者として育った。本といえば教科書以外には縁遠いものであったが、学校の授業の始めに本の読み聞かせを毎日、短時間ずつではあるがしてくれる先生があり、「今日の続きは明日へ」と期待を抱いた…。
外国船の船員さんを父にもつ上級生がいて、その本を読ませてもらうのが楽しかった。だが上級生の機嫌を損なうと読ませてくれない。切ない気持ちで帰った。本を買ってもらうことなどはなく、片田舎で図書館等更に縁遠いものであった。
男と生まれたからには社会に対して何か恩返しをと思い、軍隊に入ろうと旧制中学へ進んだが、終戦を機にその希望も断たれ、家業の農業に勤しんで歳を重ねた。ふと気がついてみると、わが子を育てる時、日本は高度経済成長の真っただ中。3人の子も周りの子と遜色なく成長している。自分が幼い時抱いた本への渇望もすっかり忘れ、金銭のことだけしか考えない父親になり下がっていた。
これから私に出来そうな事、「幼き日の本への憧れを地域に子どもたちへ」、其れがささやかながらも地域文庫開設への動機となり、長男に仕事を譲った暁にと夢見たものでした。
平成六年。長男が仕事を継いでくれたので、家族の応援、諸先輩のご指導のもと文庫建設に取りかかりました。なにぶんにも資金不足の為殆どを手作りで、1,500㎡の土地に40㎡の建物を建設し周りを林で囲みました。平成8年、長い間の夢であった「すぎの子文庫」を開館する事が出来ました。蔵書は1000冊の幼児、小学校低学年向けの新刊書。林の中には童謡が流れる施設も作って子どもたちの情緒も育む事に気配りしています。
開館以来、15年にもなりますが、家族の協力はもちろんですが、とりわけ大勢のボランティアのスタッフの皆さん方のご奉仕によって支えられている事に大変感謝いたしております。
15年前に文庫に通って来ていた子どもたちは、すでに成人になった子もいるでしょう。しかし、今も文庫には本との出会いを求め、新しい世代の子どもたちが訪れてくれています。
私は、文庫活動は"種まき"だと思っています。今すぐに芽を出すことはありませんが、子どもたちが育っていく過程で、幼い頃すぎの子文庫で出会った本や経験が、きっと生きる力になると信じています。
最後になりましたが、此のたび貴財団より思いもかけない賞を戴き深く感謝申し上げ、これから益々の繁栄をお祈り申し上げます。又、御推薦下さった神埼市に対しても、過分な措置に対し厚くお礼を申し上げます。