人命救助の功績
故. 關谷 定男
名阪近鉄バス株式会社大垣営業所の観光バスの運転士關谷さんは、平成20年4月11日名阪近鉄旅行の39名をのせて、牧之原市の東名高速道路上り線を走行中の午前11時8分頃事故に遭遇した。
下り線を走行していた産業廃棄物を積んだ大型トラックの左後輪がホイールごと外れて転がり、ガードレールに当って跳ね上り、さらに中央分離帯のフェンスを飛び越えて、反対車線を走行中の観光バスのフロントガラスを突き破って運転席を直撃し、そのまま車内に入り込んだ。この事故で關谷運転士は死亡、乗客7名が飛び散ったガラスの破片で負傷した。
この脱輪したタイヤは直径約1メートル、重さ約100キロ。大きくひしゃげて大穴をあけたバスのボディがその衝撃のすごさを物語っている。
タイヤの直撃を受けたバスは、高速道路の追い越し車線を走行中にもかかわらず乗客に急停止の衝撃を与えることなく、また後続の車両に追突されることもなく50~60メートル程走って停止した。
停止したバスの運転席で意識を失い、血まみれになりながらも關谷さんの手はハンドルを握り、足はブレーキペダルを踏んだままの体勢でいたと同乗のバスガイドが報告している。
もし、急ブレーキをふみながら急ハンドルを切っていれば、ガードレールや周辺の車両に衝突、あるいは横転し死傷者の人数はもっと増え大事故になっていたと思われる。
新聞報道などに「スーッと安全に停止した」、「急ブレーキではなかったが、すぐにとまった」、「操作を誤れば壁やほかの車にぶつかり、これだけではすまなかったはず、運転士さんに生かしてもらった」との乗客の談話が記載されている。
バスが短い距離で停止し大きな二次的事故を未然に防げたのは、プロ運転士としての技術もさることながらお客様への安心・安全の使命を全うしたからであろう。
自分の命に代えて39名の乗客とバスガイドの命を守った關谷さんは、その日が57歳の誕生日、勤続25年無事故無違反を継続し、乗客からは「親切、ていねい」と評判も高く、「運転士は關谷さんで」と指名もかかるなど、常に乗客を第一に考えるプロドライバーであった。