第二部門/多年にわたる功労
田島 伸二
教育に恵まれないアジアの子ども達のため、約30年にわたりユネスコ活動やNGO活動など識字教育を幅広く行ってきた田島さんは、社会で最も知識に飢えている子ども達に識字や読書の喜びを伝えようと、パキスタンの刑務所に収容されている子ども達(10~18歳)を対象に「キラン図書館」を設置した。(キランとは、ウルドゥー語で太陽の光を意味する。)
アジアの国々で刑務所に収容されている多くの子ども達の実態は殆ど知られていないが、貧困と腐敗した社会環境の中で、彼らの多くは幼時から多様な犯罪に追いやられ、家庭や社会から全く見捨てられた存在である。大人達が弱い立場の子どもに罪を被している場合も多い。子ども達は再起のために識字教育や読書を渇望している。現地でそれを聞いた田島さんは2000年からパキスタンのアディアラ刑務所、ムルタン女性刑務所、ファイサラバード刑務所、ペシャワール刑務所に4館のキラン図書館をボランティアの力で設置した。これは子ども達や関係者に大きな影響を与えた。これまで塀の中での子どもの識字教育は誰も考えなかったのである。司法当局や刑務所長を説得し、子どもの人権のため忍耐強く識字教育の重要性を訴え当局者の考えを変えていくのは困難を極めたという。
また田島さんは、パキスタンで初めて手漉き紙の作り方を人々に教えた。貧しい農村の子ども達から学習のためにノートが欲しいと懇願された田島さんは、彼らに紙やノートその物を与えるのではなく、彼らが自分たちで紙を作る力をもつことが必要だと考えた。高価で貴重品である紙も雑草の繊維から手漉きで作る方法を学べば簡単に作れる。田島さんは、少数民族の住むカラーシャの村、NGO、貧しい農村女性達、青少年刑務所、ラオスの山村、タイの難民キャンプ、南インドの最下層カーストの女性など数千人を対象に、現地に赴いて紙漉きを教え、自立活動を支援しながら社会的に最も虐げられた人々の識字教育を行っている。
受賞の言葉
これまで私はアジア・太平洋地域で、識字教育の仕事に従事してきましたが、教育の世界では、格差がますます広がっていくのを痛切に感じています。
なかでも大人の犯した犯罪を、文字の読み書きのできない子どもに押し付けるケースが深刻で、獄中にいる子どもたちの要請に応じて、パキスタン各地にキラン(太陽の光)図書館という子ども図書館を設置してきました。これは他の国々も同様な状況です。世界中の子どもたちが、文字の読み書きなど「教育権」を豊かに享受できるよう、今後とも国際協力を行っていきたいと思います。受賞に心から感謝します。