第一部門/緊急時の功績
故.川原 浩志
平成12年12月2日午前零時50分頃、広島市西区のアパート3階で、帰宅した女性が部屋に入ろうとして、近くのコンビニエンスストアから後を付けてきた男に刃物を突きつけられ「中に入れ」と脅された。女性が「やめてください、だれか」と大声を上げて抵抗したため、男は女性の頸を絞めるなどの暴行を加えた後、現金約1万5千円の入ったバッグを奪って逃げた。
同アパート2階に住む川原さんは、女性の悲鳴を聞いて部屋から出て2階階段のところで女性に「どうしたんですか」と声をかけたところ、女性が「襲われたんです。バッグを取られたんです。助けてください」と言うのを聞き、二人で犯人を追跡した。途中、被害品の一部が放置されていた場所で、女性は110番通報のためその場にとどまり、川原さんが単独で犯人を追跡した。
午前1時3分、アパートから約400メートル離れた喫茶店駐車場で、血を流して倒れている川原さんを通行人が発見し110番通報した。胸や腹等数ヶ所を刃物で刺されていた川原さんは、間もなく死亡が確認された。
翌12月3日、弁護士に付き添われた犯人が、広島中央署に自首した。犯人は、必死で逃げているうち後方に人の気配を感じて振り向いたところ、川原さんが目の前に立っており、自分に飛びかかってきて格闘になったため、持っていた刃渡り8.5cmのダイバーナイフで胸部等を刺して逃走したと供述している。
川原さんは愛媛大学理学部に入学したが、きちんと教育の勉強がしたいと広島大学教育学部に入り直し平成12年4月卒業。教員採用試験には合格しなかったが、広島市立井口台中学で臨時採用の理科教諭を勤めた後、10月から同市立三和中学校に非常勤講師として勤務し、「絶対に正規採用の先生になりたい」と採用試験準備に力をいれていた。真面目で生徒にも慕われた「熱血先生」の夢は、突然の凶行の前に志半ばで絶たれた。