第二部門/多年にわたる功労
工藤 姫子
昭和51(1976)年、大学在学中だった工藤さんは、ご主人の定次氏とともに東京都福生市で小中学生のための学習塾を友人から引き継いだ。のちに「タメ塾」と名付けられたその塾は普通とは異なり、当初から「来る者は拒まない」という姿勢で、地域の障害児や暴走族の少年なども受け入れて学習指導をした。泊まり込みでくる子どもたちもいたが、10年ほど前から不登校、ひきこもりの子どもたちの入塾が増え始めた。人数も多くなってきたため、二人は彼らのために寮を作った。
寮生が多くなり、塾は徐々にひきこもりの人たちの自立支援の場となり、塾というより、寮の中に勉強のためのスペースがある形になった。平成11年にはNPO法人格を取得し、寮は「青少年自立援助センター」となった。現在の寮生は約60名。ひきこもりの子どもたちが中心となってから寮生の平均年齢は24-25歳程度に上がり、入寮期間は平均して2年から3年となった。スタッフも増え、工藤さん自らは寮母として、寮の生活一切を賄っている。
朝5時に起きて食事の支度をし、昼は雑用、相談事、夕食の支度が終わったのちも、寮生たちの生活の細々したことの面倒を見る。真夜中に自転車泥棒をした寮生を警察に引き取りに行ったり、明け方泣きながら戸を叩く女子の訴えにもいやな顔一つせず応じる。365日ほとんど休みはなく、この24年間、旅行さえ行ったことがない。
寮の中では、工藤さんは母親役、ご主人が父親役、スタッフはお兄さん、お姉さんの役割だという。寮生の多くが口を揃えて言う工藤さんの印象は「恐い」。おそらくその理由は、寮生の悪い行為に対して容赦なく叱るからだろう。確かに、自分より背の高い少年や少女を大声で叱り飛ばしている姿には、周囲の誰もが沈黙せざるを得ない迫力がある。なぜ叱るのか。
「親は、子どもに対して、これだけは譲れないということを一つや二つは持っていた方が良い。そうすれば、大抵のことは許せるし、細かい事に口を出さない方が子どもはおおらかに育つから。でも、他人の子どもを叱るからにはそれなりの覚悟もエネルギーも必要。叱った後、いつも反省する。なぜ叱ったのか、ただ、自分が頭にきたからなのか、子どもが将来損をしないために、いま叱らなければいけなかったのか」
数年前、テレビ番組が「女の24時間」というテーマで、その一人として工藤さんの生活を取りあげた。それを見た視聴者から多くの電話相談が寄せられ、その都度叱るコツをアドバイスした。他人の子を叱るということが社会から少なくなってきている今、工藤さんは寮生たちの成長のために、叱咤を続けている。