社会貢献の功績
草柳 和之
平成9年から、自ら主宰する心理相談機関「メンタルサービスセンター」を通じて、未開の領域であったDV加害者更生プログラムに着手した。同11年には岩波書店からDV加害者に関する日本で初めての本を出版した。草柳さんが提唱した専門用語「加害者臨床」は2010年代に入り、多くの専門家が使う様になり、専門誌への執筆や学術集会での講演。研修も行っている。DV防止の啓蒙活動にも関与し、DVカルタの作成やDV根絶を呼びかけるコンサート活動を行ってきた。20年近く、加害者の更生、被害者のカウンセリングや裁判支援、DV防止の社会活動に一身に取り組んできた。
この度、長年のDV(ドメスティック・バイオレンス)問題を中心とした幅広い実践活動が評価され、平成27年度社会貢献者表彰をいただくことになり、誠に感謝申し上げます。
思い起こせば、精神科の病院臨床から心理臨床家としての歩みを始め、幾つかの大学で非常勤講師として教壇にも立ってきましたが、その道の半ばから家族内トラウマの問題に力を尽くすようになりました。DV被害者支援に携わったのも早期の部類でしたが、私が1997年に加害者更生プログラムの実践・研究に着手したのは、我が国で最初であり、加害者に関する著書を1999年に刊行しましたが、それも本邦初のことでした。2015年12月現在、加害者自助グループは月2回・2時間で250回以上の例会を開催、DV克服ワークショップ(加害者の集団心理療法)は土日・年4回、65回の開催を数えます。本当に、よくも続いたものだと思います。
しかしその道程は容易ではなく、多くの人々から事実無根の誹謗中傷・妨害・嘲笑・無視が執拗なまでに向けられ、それらによる心労は並大抵ではありませんでした。講演の際に罵声を浴びせられる出来事、共同の講演者や主催者からの無礼千万な言動、迷惑電話等は言うに及ばず、身の危険を感じる瞬間、果ては警察を利用した嫌がらせまでありました。しかも、これらの負担を私個人が一手に引き受けるしかなく、余りのことに、この領域から撤退しようと思ったことも、一度や二度ではありません。
それでも当方は質のよい臨床を探求することをやめず、行き詰まっては新しいアイデアを生み出し、活動を発展させることに専心しました。活動の広がりとしては、離婚裁判の際に被害者の意見書を執筆するという責任の重い仕事をはじめ、加害者の心理療法理論の開発と体系化/12冊に及ぶ本(共著を含む)の執筆/幾多の学会発表/臨床家のトレーニング実施/DV防止法の制定・改正の際、省庁や関係議員へのロビー活動/国連NGOレポートの執筆/ピアノ演奏を通じてDV防止や平和を訴える音楽活動(国内だけでなく海外にも足を伸ばすことになった)、など、個々に列挙しきれない、膨大なものとなりました。得ることが多かった一方で、多くの大切なものを失ったのも確かで、虐待問題の底知れぬ深さを感じさせます。
心理臨床・カウンセリングの分野に身を投じた時点では予想もつかぬほど、遥かな地点まで来ることができました。それも、多くの方々から当方の活動に対するご理解とご協力を頂戴してきたことの賜物です。これから書きたい本も、世の人々のためになる新機軸のプランも、たくさんあります。「領域を超えて行動する心理臨床家」としての草柳和之を、今後ともご理解、ご支援たまわりたく、さらにはご指導、ご鞭達をよろしくお願い申し上げます。