第一部門/緊急時の功績
蓮見 仁平
8月27日未明、栃木県那須地域は時間最高雨量90mmの豪雨に見舞われ、約50km下流の烏山町でも断続的な降雨が続いていた。氏は同日午前8時前、那珂川左岸の自宅から約500m離れた船着き場に行き、通常時より2mも水位が上昇した川水に腰まで浸かりながら、所有する3隻のアユ釣り船を川岸の高台に移動させた。
断続的な大粒の雨の中で地元の人と川の様子を見守っていた時、土手を下流に向かう軽乗用車を認めた。直後に水位は急激に上昇し、川幅も通常70~80mの2倍以上になった。下流へ行った車が気懸かりで土手づたいに行くと、河川敷で軽乗用車が濁流に水没し、約400m離れた中州から助けを求める声が聞こえた。
川中に取り残された3名が腰まで水に浸かり、冷蔵庫やドラム缶、家畜、流木を必死で避けているのを認めた氏は、川岸で巡視警戒中の消防団員に消防署への救助連絡を託した後、再び現場に戻った。
その間にも水勢は強まり一刻も猶予できないと判断した氏は、川岸に移動させた自分の舟の中で一番大きい、長さ約8m・幅約60cmの木製の舟を選び出し、一人で濁流の中へ漕ぎ出した。急流を乗り切って約500m下り、しぶきの間から3名の姿を確認して舟を寄せ、船内に助け上げた。
喫水ぎりぎりとなった舟を操り、再び左岸を目指して漕いだ。現場下流は荒川と合流した危険な岩場で川幅も200m余に拡がっており、岸からのロープ確保も不可能な状況であった。
高さ約1mの波を上げる濁流、川底に竿が届かない危険な状況の中を操船し、上流に向けて漕ぎ続けて約1時間後、100m離れた川岸に舟を着け、無事3名の救助に成功した。
救出された3名は付近の家族で、氏と同じようにアユ釣り船を引き上げに来て、急激に増水した川中に取り残された。同月30日まで続いた集中豪雨の影響で那珂川と荒川が増水、氾濫したため、烏山町では浸水131棟、34世帯103名が避難、田畑の被害は203ヘクタールに及んだ。