中津 賞
大阪・堺市で動物病院を経営する中津獣医師は、傷ついた野鳥を手当し自然界へと戻す活動を1974年から行っている。ガラス窓や自動車にぶつかったり、農業用ネットに絡まる等、主に人の生活に関係して傷ついた野鳥を治療し、リハビリを行い野生へ戻している。同年、大阪府知事より、野生鳥獣救護ドクターの指定を受け、年間140羽前後の傷病野生動物(主に野鳥)を受け入れ、無償で治療し、うち65%以上を放鳥、これまでに救護した数は6,000羽を超える。
また、タンカー流出事故で油まみれになる油汚染海鳥の救護ができる人材養成の講習会を私費で毎年開講し、既に800名を超える修了生を得ている他、2008年にはNPO法人野鳥の病院を開設、代表として、年に6回、獣医師・動物看護士・一般市民を対象に野生動物の救護が出来る野生動物リハビリテーター養成講座を毎年開講し、これまでに120名が修了している。
この度は社会貢献賞の受賞の栄を得まして、大変ありがたく思っています。私は獣医師として、堺市に動物病院を1972年に開院しました。大学院の下宿時代には狭い部屋一杯に鳥かごを積んで飼育していたのは今となっては良い思い出です。鳥に関する大学の授業は、食鳥としてのニワトリの伝染病だけでした。ペットとしての鳥類医学に関する授業は皆無で、開業しますと沢山の飼鳥たちが診察に訪れます。飼育経験はありましたが、学問的な裏付けのない状態でした。これではいけないと思って、海外の文献や報告を読み漁り、次第に確実な診断と治療ができる様になりました。また評判を聞きつけて、沢山の野鳥たちも持ち込まれてきました。飼い主がいるわけではないので、すべてボランティア活動として入院させて治療し、野外復帰訓練をして放鳥できまで看護します。
こうして得た治療法の改善や入院中の栄養補給法の実績はその都度学会報告してきました。傷病野生動物の救護といっても野鳥が99%です。年間の救護例は140件を超える状態が数十年続きました。ツバメの巣がヒナを入れて落ちることがあります。この時は一度に5羽のヒナが入院します。食欲旺盛で夜中も給餌しないといけません。また、不法に捕獲飼育しているメジロなどが警察の摘発で、数十羽が搬入されることもありました。飼鳥の治療で得た知識を野鳥に応用したり、野鳥の救護を通して得た情報を飼鳥に応用していくことで一層治療効果がよくなりました。入院鳥は動物看護師が熱心に看護し、衛生管理をしてくれます。この方達の御苦労も忘れてはいません。
台湾で開催されたミネソタ大学ラプターセンター教授陣による鳥類医学の4日間研修コースを受講して、一気に世界的な最先端の鳥類医学と整形外科手術を修得できました。鳥の理学療法にも積極的に取り組んで、現在では翼を骨折した鳥でも、飛行が再開でき、野生復帰症例が急に増えて来ています。小型発信機を装着して放鳥後の行動・生態の追跡調査も行なっています。タンカー事故時の油汚染水鳥の救護技術を持つボランティア養成にも私費で積極的取り組み、大阪では800名近い方が修了されています。
今回の受賞を機にいっそう精進し、社会に貢献したいと存じます。有難う御座いました。