受賞者紹介

平成21年度 社会貢献者表彰

特定分野の功績

海の貢献賞
すずき さとし

鈴木 諭

(60 歳/香川県坂出市)
鈴木 諭
平成 5 年、川崎造船坂出工場で、舶用構造物のうち乗組員の居住に使用する区画を溶接している鉄板を接合し、組み立て製品化する「居住区鉄工工事」を担当した。以来技術者として、鉄工工事の中の大型のガスバーナーと水ホースを用いて鉄壁や鋼床、入り口、窓などに溶接工事の加熱などによって発生した変形を直す「歪取り」の作業に優れた技術を発揮し、作業手順をマニュアル化するなど 1 隻当り 1,200 時間必要とされていた時間を約 400 時間に短縮させるなど造船業界の発展に尽くされている。
推薦者/株式会社 川崎造船 坂出工場

受賞の言葉

この度、このような名誉ある社会貢献者表彰に浴する事になろうとは夢にも思いませんでした。 これは40年もの長きに渡り地道に取り組んできた歪取りと言う仕事が功績として認められた結果で有り誠に光栄に思っています。 受賞へ推挙を賜りました関係者の皆様には感謝の気持で一杯です。今後はこの受賞に甘えることなく、より一層職務に邁進し技能の伝承、後継者の早期育成など様々な面で良い船造りに貢献して行きたいと思っています。

工場事務所前で

「歪取り」という仕事を始めたのは、今から 38 年前に当社川崎造船(当時は川崎重工業)神戸工場から坂出工場へと転勤したのがきっかけとなった。神戸工場で勤務していた時は、船体組立ブロックの取付作業をしていたが、坂出工場に転勤して上部構造(ブリッジなどの居住区ブロック)で歪取りを行うようになった。

当時の現場は徒弟制度のようなものが色濃く残っており、新人が先輩に歪取りのやり方、こつ等を聞いても全く教えてくれなかった。私もほんの新人だったころ先輩に聞いてみたことがあったが、答えは「誰が教えてやるか!おれは自分で覚えたんだからお前も自分で覚えろ!」であった。そこで私は先輩が実際に歪取りを行っているところを観察したり、昼休みに先輩が歪をとった箇所を見にいったりして技術を身に付けていった。

そうしてなんとか歪取りが出来るようになったのであるが、歪取りの仕事をしながら「これはなんてきつい作業なんだろう。今は若いからできているけど、もっと年をとったら体力的にもたないかもしれない。」と常に危機感を持っていた。そこで私はいつも歪取りをしながら、もっと早く、安全に、きれいにできる方法がないかを考えながら仕事をしていた。

私がこのマニュアルを作り上げたのが今から24~5年前、私が35、6歳のころであった。その時には全歪取り作業者の中でも私が一番早く、きれいに仕上げることができていた。

私は自作のマニュアルを他の作業者にも広めようとした。しかし、同僚、後輩は私のマニュアル通りにしてくれるのであるが、やはり私よりも上の先輩は受け入れてくれなかった。仕方ないので、同僚、後輩のみマニュアル通りに歪取りを行うのであるが、当然先輩達よりも私達のほうが早く、効率的に仕事を進めていた。そのうち、一人の先輩が「そのやり方ええな。おれにも教えてくれ。」と言ってくれ、それから全作業者に私のマニュアルが広まり、上部構造の全作業における歪取りの時間数が激減した。

昔はこの歪取りという作業は、膨大な時間を必要とする非常に体力的にきつい作業だったが、私のマニュアルが広まった後には、作業時間を大幅に削減することができ、より安全に、体に与える負担も少なく行える作業になった。今では私の作成したマニュアルが中国語と英語に翻訳され、中国、韓国、アメリカ、イギリスの造船所で用いられている。どの造船所でも歪取りにかかる時間をおおいに削減できることができたと聞いている。

私は川崎造船という会社に大変お世話になった。歪取りの技術もそうであるが、何より人間的に大きく成長させてもらえた。私は恐らく後数年で現場を引退することになると思うが、その前に私の持つすべてを若い人達に伝えて、その恩に報いたいと思っている。そして、それこそが引退間近の私の使命であると思っている。

歪取り作業中の上部構造
壁歪み計測(約5ミリ)
外部壁面・歪取り作業

Mr. Satoshi Suzuki

(60 years old, Kagawa, Japan)
In 1993, at the Sakaide plant of the Kawasaki Shipbuilding, Co. Ltd., Mr. Suzuki was put in charge of assembling welded iron plates for the construction of sailors’ living and sleeping quarters. As an engineer, he was responsible for developing the technology for managing stress on the metal plates. On the basis of a work process manual he wrote, he was able to reduce to 400 hours or so the 1,200 man hours of work previously regarded as necessary in completing these quarters on a ship. He is therefore commended for his contribution to the development of the shipbuilding industry.
Recommended by the Sakaide Plant, Kawasaki Shipbuilding Co., Ltd.