受賞者紹介

平成21年度 社会貢献者表彰

社会貢献の功績

かわの くすみ

川野 楠己

(79 歳/神奈川県横浜市)
川野 楠己
元 NHK のラジオディレクターとして、25 年間「盲人の時間」を通じ、日本の音楽、文化の担い手として努力する盲人の姿を伝えた。平成 2 年に定年退職後は在職中に繋がりを持った視力障害者団体への援助、協力の他、琵琶盲僧や箏曲家や瞽女(ごぜ)など視覚障害を持ちながら、日本の伝統音楽を創作し、後世に伝承するために果した努力を現代に伝えることをライフワークにした。そして昭和中期まで活躍していた瞽女の文化を記録、最後の瞽女と言われた故・小林ハル氏の CD 製作、また琵琶盲僧永田法順氏(平成 22 年 1 月 24 日逝去)のもとに25 年間通い、経典などを CD や DVD としていずれも自費で製作し、世の中に広めるなど、障害者の支援活動を続けられている。
推薦者/社団法人 温故学会、日本盲人社会福祉施設協議会

受賞の言葉

私は昭和 41 年から視覚障害者と取り組んできた。すばらしい世界に生きる方たちばかりだった。みなそれぞれが努力を続けてきた人たちである。我々はいかに生きる努力をせずにいるのか恥じずにはいられない。「障害者の生きる姿こそ、健常者が学ぶべきである」と、ささやかな訴えを続けてきたことが今回の受賞になった。
私に、生きる努力の必要を教えてくれた障害者の皆さんに感謝申し上げる次第である。

日本点字図書館田中館長にインタビュー H.20

墨染めの衣に琵琶を背負い、白杖をついて足早に檀家をめぐる盲目の僧・永田法順師は、今日も日向の里を行く。檀家では、家屋敷に溜まった不浄を払い五穀豊穣・家内安全を祈願する。印を結び数珠を揉んで経典を唱える。続いて琵琶をリズミカルに弾じながら仏教説法を吟じる。震える絃の響きは人の心の悲しみを誘い出す。太く渋い彼の声は、部屋全体を宇宙空間で包み込む。

昭和後期まで九州全域で琵琶盲僧は、こうして檀家の人々の祈りを支えてきたが、今では延岡市の浄 満寺住職永田師だけになった。

新潟県の越後瞽女たちは、盲目の女性だけの芸能集団である。三味線を手にして3~4人で組を作り農山村の奥地まで訪ね、はやり唄や古浄瑠璃の段物を語って人々を慰め、心を癒して歩く旅を続けていた。以前は全国的に瞽女の集団が見られたが明治期以後新潟県にのみに残され、師匠から弟子へと厳しい躾と指導を受けて旅先で喜んでもらえる芸を身につけた。  最後の瞽女といわれた小林ハルは、吹雪の川原で寒稽古を7歳のときから20歳過ぎまで続ける修行を重ねた。風雪に磨かれた声と巧みな三味線芸を平成に伝えた人である。

私は、昭和40年代の末頃からこれらの存在を知り、ラジオディレクターとしてその終末期をつぶさに取材してきた。私はこの琵琶盲僧とゴゼの人々が「内には自己の障害を克服し、外には差別偏見に苦しみながら芸を磨き後世に伝えたその努力に、現代の我々が報いなければならない」と考えた。彼らが障害を克服し多くの庶民のこころを支えて生きたその業績までも、時代の波に埋没させてならないと訴えた。

やがて私は、平成2年にNHKを定年退職した。そこで、瞽女唄や琵琶盲僧が持つ琵琶楽の釈文を録音しCD「最後のゴゼ・小林ハル」「琵琶盲僧の世界」を自費制作して世に送り、取材ノートを下にその半生を記録した著作を上梓した。

これが種になり、やがて芽を吹き出して世の注目を浴びて、平成11年3月の「琵琶盲僧永田を記録する会」同年5月に、「ゴゼ文化を顕彰する会」を立ち上げて以来、多くの知己を得て目的に邁進している。

こうして私の瞽女顕彰碑建立の願いが全国から寄せられた三百万円の浄財により完成。永田法順師も宮崎県の無形文化財の指定を受けることができた。

芸術性の高い三味線箏曲・琵琶楽などの日本の伝統音楽の陰にある視覚障害者の努力のあとを、検証し顕彰することが私に与えられた道になった。

小林ハルさんを取材 H.11
シンポジウムをプロデュース H.21

Mr. Kusumi Kawano

(79 years old, Kanagawa, Japan)
For 25 years on his program "Time for Blind People" that Mr. Kawano produced for NHK Radio he introduced stories of blind people who were the soul of Japanese music and culture. After his retirement, making the best use of the contacts he had made during his radio career, Mr. Kawano provided assistance and cooperation to blind people’s groups, recorded stories of the cultural and daily lives of Goze players who were active until the mid-seventies, and produced a CD of the late Ms. Haru Kobayashi, recognized as the last master Goze player. In addition, Mr. Kawano often over a period of 25 years visited a famous blind biwa-playing monk, Venerable Hojun Nagata, to copy Buddhist scriptures of which he made a CD and DVD at his own expense, so that others would be able to share their great legacy. He continues to actively support his blind friends.
Recommended by The Onko Academic Society and The Japan Council of Social Welfare for the Blind